「石敢當(いしがんとう)」を知っているだろうか。石敢當は沖縄の魔よけで、沖縄の路地ではふつうに見ることができる。この風習、実は東京近郊にもちょっとずつ入ってきているのだ。
最近都会にある石敢當が、沖縄のものとは違った魅力を放っていることに気づいてしまった。住宅地やお店。その場所によってたくみに姿をかえ街なみにとけ込んでみせる健気さよ。一つ一つが個性豊かで愛おしくてならない。
今回はそんな都会にある石敢當を5個紹介したい。これを読み終われば石敢當が気になってしかたなくなっているはずだ。そして一緒に石敢當、探しましょう。
そもそも石敢當とは?
まずは石敢當とはなにか簡単に紹介する。
石敢當とは沖縄でよく見られる風習だ。沖縄の魔物「マジムン」はまっすぐ進む性質がある。そのため、T字路やY字路に石敢當をおくことで敷地に侵入するのを防ぐことができるという。玄関にシーサーをおくのとほぼ同じ効果だ。
では石敢當とは具体的にどんな姿なのか。こういうときは百科事典を見てみよう。Wikipediaを見ると石敢當の写真がのっていた 。
形は様々で、「石敢当」「泰山石敢當」「石敢當」と文字のバリエーションもあるとか。
ではこれが都会だとどんな姿になるのか。お待たせしました。いよいよ本題です!
1. 暗渠にある石敢當
最初に紹介するのは川の跡、「暗渠」にある石敢當だ。実はこの石敢當、僕がハマるきっかけになった一番好きなやつだ。
この魅力を伝えるためには暗渠がどんなところか知ってもらう必要があるので、まずはそこから。暗渠とはいろいろなものがあるが、多くの暗渠に共通しているのが「飾らない雰囲気」だ。
世の中のものを「ハレ」と「ケ」にわけるとするなら、暗渠はまちがいなく「ケ」に含まれる部類のものだ。暗渠は日常の延長線上にあるもの。歩いていると「人間の本質」をのぞくことができる。
失礼。つい暗渠が好きで話しすぎてしまった。そんな人間の本質が見られる暗渠の石敢當に会いに行こう。まもなく到着だ。暗渠道を歩いていると不思議な石が目に入る。
右側の石が石敢當だ。詳しく見てみよう。
まさかの「手彫り」だ! ここまで素朴な石敢當って日本全国探してもなかなかないと思う。沖縄と違い簡単に石敢當が手に入らないから手作りしたのだろうか。
日本では万物に神は宿るといわれている。一人が神聖さを感じればそこから信仰は始まる。その始まりの姿こそ、この石敢當なのだ。
まさか暗渠の石敢當で日本の文化の根源を学べるとは思っていなかった。石敢當、深いぞ。
ふと石敢當の近くから視線を感じた。肩入れするあまり神聖な気配すら感じることができるようになってしまったのか。この石敢當、ますますただ者ではない。と思いつつも視線をたどってみた。石敢當から視線を上げる。
2. 普通の住宅地にある石敢當
次は古くからある杉並の住宅地だ。家は庭つきの一軒家からアパートまでさまざま。多くの人が「いたって普通の住宅地」と感想をもつ場所だ。
この写真を見て気づいただろうか。実はすでに石敢當が写っている。
このひかえめさよ。最初に見せた沖縄の石敢當と比べるとこじんまり。知っている人は気づくけど、石敢當を知らない人は素通りするぐらいの存在感。目立たなさ。いい。
石敢當を見ていると大学時代の友人を思い出した。ふだんは物腰がやわらかで目立たないやつ。でも勉強が好きで、数学の話になるととたんに頼もしいやつに早変わり。その学問へのまっすぐな姿勢にまぶしさを感じたものだ。
彼の芯の強さはこの石敢當と同じだ。卒業から連絡をとってないけど、きっと今も石敢當のように堅実にがんばっているんだろうな。
普通の住宅地では、ひかえめだけど芯の通った石敢當と出会うことができた。
3. おしゃれな住宅地にある石敢當 ①
今度の舞台はさいたま市の住宅地だ。
見てほしいこの優雅な街なみを。小説に出てくるような白いワンピースを着たお嬢さんが歩いている姿が目に浮かぶ。
一目ですっかり気に入ってしまった。自然に手と足が動く。深呼吸する。この街を全身で感じたい。写真の撮影時間をあとでチェックしてみると、1時間も街中を歩いていた。街並みは1キロちょっとしか続いてないのに。「日本の住宅地百景」なんてものがあればこの街並みを推したい。
さて、もっと話したいけど今日の主役は石敢當だ。この街にとけこめる石敢當ははたしてあるのだろうか。武骨な石の姿が合うとは思えないし、かといって目立たないようにするのもこの街ではちがう気がする。予想は白いワンピース。それはないか。さていよいよご対面だ。
そうきたか。これはさっきの石敢當と比べて「遊び心」がある。守り神シーサーと手書き(風)で「石敢當」の文字。色も沖縄らしく赤みがかっている。まさにおしゃれな住宅地にふさわしい石敢當だ。おみやげにこの石敢當のキーホルダーがあったら売れるにちがいない。少なくとも僕は買う。
どうだろう。石敢當に個性があることをちょっとはわかってきただろうか。
4. おしゃれな住宅地にある石敢當 ②
次は東京の三鷹市にある住宅地。三鷹といえば「三鷹の森ジブリ美術館」。さらに「おしゃれな街」で有名な吉祥寺駅のとなり駅でもある。とうぜん住宅地にもそのおしゃれなDNAがしみわたっている。石敢當がいるのはそんな街の一軒家の一つだ。
同じデザインだ。まさかの石敢當かぶり。
ネットで調べてみると見つけてしまった。この石敢當、楽天で売ってる。4000円でおしゃれな街のシーサーが買える。一家に一台石敢當。これをつければたちまち高級住宅に様変わり。一ついかがでしょうか。
5. 商店街の近くにある石敢當
気を取り直して、今度は意外な場所にある石敢當を紹介しよう。場所は吉祥寺の商店街から歩いて5分ぐらいのところだ。どどん。
沖縄の古い家には赤瓦が使われているものが多い。今回の石敢當もおそらくその赤瓦なのだろう。住宅地のようなかわいさはないけど、どこか和風を感じさせる植え込みと鉢の間に違和感なくとけ込んでいる。
さて、この石敢當の真のおもしろさは実はここから。まずはこの石敢當がいる場所を見てほしい。
白と茶色のコントラストに石敢當もなじんでいる。このセンスの良さよ。さすが店の装飾だ。石敢當も鼻が高いにちがいない。
でもこの石敢當の魅力はこれだけじゃないんです。引きにして見てみると……?
この石敢當にはじめて出会ったのは、車に乗って家族で出かけたときだった。窓の外をながめていると突然の石敢當。大通りに石敢當があるわけがない。幻覚か? いや現実だ! 思わず「ふぇあっ!?」と変な声。家族に心配された。
発見したうれしさのあまり「ユリイカ!」と叫んで裸で街を駆け回ったアルキメデスを今は笑うことができない。
そして最後に一つ、この石敢當で僕が一番好きなところはここだ。
おわかりいただけただろうか。T字路になっているのだ。店の装飾としてとけ込んでいる石敢當は、本来の石敢當の役割もきちんと果たしていた。飾りとおもいきや現役で店を守っている。こういうけなげさに弱い。石敢當、今日もがんばって守っているんだな。
まとめ
お地蔵さんや記念碑。街なかにはたくさんの石像やオブジェがある。それらの管理者はたいてい自治体や町内会だ。一方で石敢當は完全に個人が設置するもの。そのぶんひとつひとつに個性がにじみ出ていて奥が深いのだ。
見つけたらぜひ足を止めてながめてみてほしい。見れば見るほど、その場所ならではのイカした姿に目が離せなくなってくるはずだ。