サミットが主催するお祭りに行ったらサービス精神に圧倒された

サミットが好きだ。

一人暮らしを始めて不安だったときに支えてくれたのはサミットだった。

週ごとに別の商品を2割引してくれるやさしさ。ご機嫌で鼻歌を歌いながらレジをこなしていた元気な店員さん。

疲れたときに元気をもらった回数は数えきれない。

そんなサミットが主催しているお祭りがあるという。

行ってみると、サミットのサービス精神がこれでもかと襲ってくるとんでもないお祭りでした。

 

サミットのお祭り

サミットは首都圏を中心に展開するスーパーマーケットだ。

緑の若葉が目印!

サミットはほかのスーパーと比べてどこか明るい。

おそうざいコーナーには「写真を撮って家族に送って相談してね」とやさしく書いてある。レジの人も他のお店より明らかに元気で、「楽しく働いている感」が伝わってくる。

疲れたときに行くとちょっと元気が出る店。それが僕にとってのサミットだ。

 

金曜日の仕事後、いつもの習慣でサミットの公式アプリを開いた。土~月曜日のチラシをチェックするためだ。

裏面に気になるものを見つけた。

お祭りの宣伝がなぜここに?(2024年12月14~16日の広告より引用)

調べると、どうやらサミットが主催するお祭りがあるという。(大宮八幡宮との共催)

サミットファンとして、これは行くしかあるまい!

 

大宮八幡宮へ!

当日、電車に乗りながらスマホでぽちぽちと検索する。ちょっと予習しよう。

「杉並花笠祭り」は、サミットが「地域の方々に日頃の感謝を伝える」ために始めたものだという。

感謝を伝えるために何をしようかと考えたとき

「山形のいも煮がうまかったから食べさせたい!」
「それなら山形の花笠祭りと組み合わせよう」

と意見が出て決まったとか。

食べ物がきっかけで始まったお祭りってのがスーパーらしくていい。

 

西永福町駅から歩くこと10分、立派な鳥居が目に入ってきた。到着だ。

ということでやってきました大宮八幡宮

進むとさっそく行列があった。なになに。

行列は何だろう。数十メートル辿ると――

「いも煮チャリティープレゼント」

いきなりの山形に出会った。しかも無料!

いいんですかサミットさん。

いつもお世話になっているのに、ここまでしてもらっていいんですか。

と思いつつ、Uターンしていそいそと並んだ。

行列が長くていも煮のテントが見えない!

「初詣に並んでる」って言えば100%信じてもらえる写真が撮れた。
いも煮に並んでます。

「鍋通りまーす」って聞こえて、なんだそれって見たら鍋が通っていた。

石碑「さまよえる こころ一途に 何を欲す」
僕「いも煮を欲してます」

25分後、ようやく約束の地にたどり着いた。

待ってたよ!

いも煮をてにいれた!

用意されたベンチに座っていただきます。

自然と笑顔になった。いも煮は、想像の倍は満足できるものだった。

はじめて食べる巨大サイズの里いもがひたすらにやさしい。ネギと牛肉が汁にとけこみ、スープを引き立ててくれている。山形名物の玉こんにゃくが入っているのもうれしいところだ。

山形に初めて行ったとき、山寺で食べた玉こんにゃくがうまくてびっくりしたんだっけ。

ごちそうさまです!

何より予想外だったのは、量がたっぷりあることだ。こういう無料のものって、たいていは量が少ないものだ。しかし、このいも煮には野菜と牛肉がこれでもかとごろごろ入っていた。

さすが、いも煮のためにお祭りを始めただけはある。サミットの本気を見た。

 

サミットの本気はこれからだった

サミットのおもてなしに、さっそく満足してしまった。

ただこれで帰るのはもったいない。もう少し歩いてみよう。

角を右に曲がると、もう一つの参道が現れた。

その先の光景に足が止まった。

この人だかりは一体……?

いも煮の行列よりも熱気がある。

人の流れに飛び込んでみると、その正体がわかった。

シカ肉が無料ですと!?

水餃子も!

カレーライス食っていいのか!

「アイスクリームつかみ取り」人生で始めて聞いた言葉の組み合わせだ。

チャリティーはいも煮だけではなかったのだ。

しかも、様々な企業がアベンジャーズのように集って提供を競っている。

ちなみに、「チャリティープレゼント」なので受け取るときに募金もできる。しかし、その募金は各企業ではなく社会福祉の団体に寄付されるという。

ひたすら続くチャリティーの連なりに揺さぶられてフラフラしてきた。

僕ら庶民が想像する夢の世界って、こんな空間じゃないだろうか。

「サービス精神王選手権」の会場はここですか。

 

そんな企業たちの姿を見て思ったことがある。

これ、「サミットカップ」と似てるな。

サミットカップとは、24のメーカーが自社製品を使ったレシピを提案し一番人気を決める、トーナメント形式のイベントだ。

告知ポスターにも力が入ってる。(サミットのプレスリリースより引用)

このイベント、サミットが謎に力を入れているのだ。

まずはこの戦いの画像を見てほしい。(サミットのXより引用)

見てほしいのが、参加者の肩書きだ。

エバラ食品工業株式会社 代表取締役社長 森村 剛士

理研ビタミン株式会社  代表取締役社長 山木 一彦

各会社の食品の仮装をしているのが、社長なのだ。

つまり、参加する24社すべての社長と調整し、衣装を決め撮影する手間を踏んでいることになる。

コメントも「シーソー(紫蘇)ゲーム」「負けてもへこタレないでくださいね」と異様な凝りようだ。

ポイントはまだある。対決時のコメントは対戦ごとに変わるので、

24(予選)+16(決勝1戦)+8+4+2…=54パターン

も考えることになる。

54個のダジャレを考える仕事、僕にも手伝わせてください。

日清食品さんのチキンラーメンをいただきました! 寒空の下食べるジャンクな味わい、いいよね。

サミットが全力を尽くして企画を立ててやりぬく姿に、サミットカップと今日のお祭りが重なった。

そんなことを考えながら歩くと、競い合って出しているブースがお互いをたたえるような場所に見えてくる。

満足してデザートがほしくなったので、日清製粉ウェルナさんのチュロスをゲット。内側にカスタードがつまってておいしかった!

 

まさかのVIP登場!

「まもなく花笠踊りがここを通ります!」

人をかき分けて歩いているとアナウンスが耳に入った。えっここ通るの。

そういえば、今回の「お祭り」のメインをすっかり忘れてた。いそいそと見やすそうな場所に移動する。

和楽器が鳴り出した。

太鼓の低温が腹にしみていく。この音を聞くと高まるDNAが刷り込まれている。

スタッフの方がくるくるとひもで通路を作っていく。

人が通れるようになった。

そういえば、杉並花笠踊りでは会社ごとのグループで踊るとか。

だんだん列が近づいてきた。

最初に現れた団体は――

サミットだ!

サミット社員さん、いつもお世話になっております。この法被、どこで買えますか。

女性陣の華やかな動きを見て、花笠踊りの良さがすぐにわかった。

そのあとに続くサミットカラーが男性陣だ。

男性陣を見ていると、一気に顔が熱くなった。

「えっ!!」と声が出た。

ひときわ楽しそうなスキンヘッドの方はまさか、

社長さんだ!!

ぴょんぴょん跳ねたくなるのをこらえてスマホをかまえた。

 

えー、ここを読んで多くの人は「なんで社長を知ってるの」と疑問だと思う。お答えします。カギは、またまた「サミットカップ」だ。

さっきの画像の下のほうをよく見てほしい。

お気づきだろうか。

社長がいるんです!

サミットカップには、「レフェリー」として社長が参加しているのだ。

サミットカップは7月から12月までの長いイベントだ。そして、広告には対決のたびに社長が映ることになる。

気づいたらすっかり姿を覚えていた。

お客さんにファンサをする社長!

ちなみに、サミットの花笠踊りは一糸乱れぬというよりは人によって踊り具合が様々で味わい深かった。

社員がスーパーで踊るけど乗り具合が人によって全然違う「サミットファンの歌」みたいで、こういうのもいいものですね。

 

そのあとも列は続く。

「東京花笠連合会」こちらは花笠の動きがびちっとそろっていてかっこいい。本場の花笠祭りを見に行きたくなってきた。

サミットのスタッフが「住商フーズ」と「フジッコ」の人とノリノリで踊っててお祭りはこうでなくっちゃね。

屋台やサミットカップで見た企業が続々と現れる。凱旋パレードみたい。

後半になるとみんな顔が疲れてくる。
そういえば踊っている人たち、休日出勤のサラリーマンなんだよなとちょっと我に返った。

 

クライマックスへ

列がとぎれた。彼らはみんな、本堂のほうへ進んでいった。

ついていってみよう。

門をくぐる。

全員が集まって踊っている!

これはいい。

花笠の赤とサミットの緑、そして空の青が混ざり、まるでこの世とは違った世界が生まれていた。

理由はうまく言葉にできないけど、ずっと見ていたい。そう思った。

 

太鼓の音が止んだ。踊りが終わる。

世界は現実に戻っていく。

 

お祭りのメインイベントも見られたし、そろそろ帰ろうかな。

後ろを振り向くと、

見覚えのありすぎる色合いだ。

キョロちゃん

どうやら、この境内ではゆるキャラの撮影会が行われているようだ。

ひよこちゃんとレモンじゃの邂逅。

コアラのマーチ。高速に鼻をへこませる技を披露していて二度見した。

ふと遠くに目をやると、花笠踊りの参加者が記念撮影を始めていた。

手前にはゆるキャラを見て笑顔の子ども。

奥には踊りを終えて笑顔の大人たち。

平和って言葉は、こういう風景のことをいうのだろう。

とにかくいいイベントでした。

 

終わりに

時計を見ると、会場に来てから3時間もすぎていた。

サミットのお祭り、まさかここまでサービス精神旺盛だとは。

食べ物に踊りにゆるキャラにと、心も体もお腹いっぱいだ。

 

帰り道、通りの先に見覚えのあるロゴがあった。

サミットの本社、こんな近くにあったんだ。

このお祭りは、サミットが「地域の方々に日頃の感謝を伝える」ために始めたという。

気持ちは嫌というほど伝わった。

ありがとう、サミット。

また、お店に行くね。

サミットのゆるキャラ「もぐにぃ」もかわいかった!

『歌詞をたよりに集まる』を文学フリマ東京39で頒布します!

今年の春のある日、参加者として文学フリマの会場に再び訪れた。

その結果、会場で仲良くなった人と一緒に文学フリマ東京39に参加します!

 

新刊の経緯

今回一緒に出すのは「電車待ちに読むブログ」の人だ。

エネオス」を見るだけで元のブランドが見えるという記事が大人気だったので、はてなブロガーの方なら知っている人もいるかもしれない。

春の文学フリマに出店しており、それがきっかけで次は二人で楽しいことをやろうって話になった。

 

では何を書こうかとネタ出しをしていたときのことだ。

福山雅治の『東京にもあったんだ』って、どこから見た景色を歌ってるんだろう」という会話で盛りあがった。

 

「景色がきれいなスポットといえば高尾山?」

「いや、都心の高層ビルで働いて夜景を見ているパターンもありそう」

ドラマ「東京タワー」の主題歌なのでおそらく答えは決まっているのだが、歌詞だけだと意外とわからないものだなと。

 

それなら歌詞だけを手がかりに集合できたら楽しいんじゃないか?

 

そう考えて仲間を募り、インターネット性善説ドラゴンさん(@SeizensetDragon)、カロ―サムさん(@PrisonMeal)を合わせた4人で実際にやってみたのが今回の本になる。

 

やってみると想定よりもはるかに楽しいことになったので、ぜひ読んでもらえると嬉しい。

 

お品書き

ということで、今回の新刊のタイトルは『歌詞をたよりに集まる』だ。

それぞれがブログで発表した「歌詞で集まる」記事を手直ししたものに加え、二人の座談会を収録した豪華96ページとなる。

 

それぞれの既刊本も持っていく予定だ。

僕が昨年の文学フリマで作った『「國威宣揚」と書いてある石碑の本』が一つ。

もう一つは、電車待ちさんの既刊『あのエネオスは元々どのブランドだったのか』だ。

お待ちしています!

 

 

出展の情報

イベント名:文学フリマ東京39
サークル名:待ち合わせ同好会
作者:あわうみ・電車待ちに読むブログ
ブース番号:O-5

本の題名

  1. 歌詞をたよりに集まる
  2. 「國威宣揚」と書いてある石碑の本
  3. あのエネオスは元々どのブランドだったのか

歌詞で集まりたい

ケータイが現れる前、待ち合わせはエンターテインメントだった。

会えるかなと期待と不安を抱いて駅に向かう。人の間をぬって、まちがい探しのように人を見て回る。

うまくいかないときに始まるのは、伝言板や公衆電話を使った空気読みゲームだ。

勝利条件は、相手と同じ場所に向かうこと。

あの楽しさを今の時代に落としこめないだろうか。そう思い、一つの企画を考えた。

「歌詞で集まる」会、始まります。 

 

ルール説明

ルールは簡単だ。一人が「曲」を選び、その「歌詞」が示す場所で待ち合わせをする。

片手一つでどんな情報も手に入る今、あえて「しばり」を設けて待ち合わせをすると何が起こるのだろう。

参加するのはこの四人だ。

筆者。謎の石碑「國威宣揚(こくいせんよう)碑」を探して東京中を回ったことがある。
謎のコンビニ「ポートストア」を探してお台場中を回ったことがある。
「スパイが取引しそうな場所」を探して山手線中を回ったことがある。
お酒が好きで東京のおいしいお店に詳しい。

 

それぞれが東京を知りつくしたツワモノだ。

今回は一人一題で、合計4回の待ち合わせをすることとなる。

それでは、始めていきましょう!

 

いきなりのパリピ(1問目 - 出題)

さあ1問目だ。とりあえずアクセスのいいところに行こうと渋谷駅の構内を歩いていると、スマホの通知が企画の始まりを告げた。

最初の出題はカロ―サムさんだ。

一問目は、Soul'd outの「イルカ」です!

 

耳にイヤホンを入れぽちりと再生する。

夜のプールを舞台に、男女の駆け引きが軽やかなラップで刻まれていく。一言でいうと、「陽キャの世界」ってやつですね。

 

まずは、曲にでてくるキーワードを整理しよう。

  • イルカ
  • プール

この手がかりから想像するものはどこだろう。

壁際に移動して目を閉じる。

 

そのまま、5分が経過した。

 

そういえば、僕、教室のはしっこでライトノベルを読んでいる側の人間でした。

答えにたどりつくためには、自分が「そちら側」の人間の思考回路をなぞる必要がある。

ということで、陽キャになりきります。

投影開始(トレース オン)。

 

私はクラスの中心です。
ワイワイ騒ぐのが好きです。

 

よし、人格移植完了だ。

では、考えていこう。もしこの曲を聴いたら何を連想しますか。

今なら見える。

このキーワードから行きたい場所は「プール」だ!

「イルカ」のいる水族館もありかと思ったが、そこじゃ騒げないので除外だ。

そしてワイワイ盛り上がるプールといえば、遊園地のようなアトラクションのついたプール!

 

これだ。

道は見えた。さっそくウォータースライダーのあるプールを調べてみよう。

検索結果を見て「うぇい!」と声が出た。

 

ウォータースライダーがあるプール、23区にあるのは一か所しかないという!

 

これは勝ちましたわ。いやー、意外と簡単だったな。

大きい歩幅で家を出た。さあ、プールに遊びに行こうぜ。

 

注:実際のところ、ウォータースライダーつきのプールは東京23区に4カ所以上あります。きっと慣れない世界を想像するのに必死だったのでしょう。

 

気づいたまちがい(1問目 - 移動)

電車に乗ること1時間、ようやく最寄り駅に着いた。

東京の右下にやってきた。三駅先には羽田空港がある。

さて、目的地には誰がいるかな。

どんなことを話そう。

そんな期待が、乗車中の景色のように頭の中で流れていく。そうそう、これこそ待ち合わせの楽しさだよねと一人うなずいた。

駅から10分ほど歩くと公園についた。この公園の一角にプールがある。

ラクタ公園のガラクタが「本気」すぎる。少年時代にこれが近所にあったら毎日通ってた。

ウォータースライダーが見えた! が……

うぇぃ? ずんずん進めていた歩幅が小さくなった。

プールにいる人たちの身長が、予想よりもはるかに小さい。

入口にいたのは、今回の曲に出てくるような「陽キャたち」でなく、全身を使って楽しむ「子どもの姿」だった。

待ち合わせ相手は、誰もいなかった。

プールに着いてこんな悲しく感じることってあるんだ。

 

思い込みって怖い(1問目 - 回答)

通話をつないだ。答えの発表だ。

プールの手続きをしている子どもの列の近くで、小さくなって通話する大人がここに一人。

正解は、23区で唯一「夜」まで営業している水族館「アクアパーク品川」です!

 

ちなみにほかの人はというと、

アクアパーク品川でカロ―サムさんの横にいます!
入口にイルカのモニュメントがあるしながわ水族館にいます
萩中公園プールです……

 

僕以外の三人はプールでなく「イルカがいる場所」で探していたということか。

授業で順番に発表していると、だんだん自分の内容が主題から外れていることに気づき汗が止まらなくなるやつを久々にくらった。

そのやらかしで文化人類学の単位を落としたんだっけ……。

 

「プールは関係ないのか……」

思わずぽろっと負け惜しみが出た。

アクアパーク品川には『ナイトプール』もありますよ~」

とカロ―サムさん。

完敗だ。

結果を見るとひとりだけ浮いている……。プールだけに。(OpenStreetMapをもとに作成)

ただ、一つわかったことがある。

これ、思ったより楽しいぞ。

曲に対して存分に頭を働かせ、自分なりの答えを見つける。そのパズル感よ。

正解にたどり着けなかったときの「してやられた感」もそれはそれでたまらない。

よし、次のラウンドで見返してやろう。

 

かんぺきなロジック(2問目 - 出題)

気を取り直して、次は出題側だ。

2問目は「君をのせて」です!

 

「誰もが知っている曲」で落ち合えたらかっこいいよね。そう思っての選曲だ。

 

ここで、どう場所を当てるかのカラクリを紹介しよう。

歌詞を思い返してほしい。頭に残る言葉がないだろうか。

地球は回る

歌詞中で一番多く出てくるのがこのフレーズとなる。

つまり、作戦はこうだ。

 

「回る地球が見える場所」で集合しよう。

 

そして、東京のお台場には、ちょうどよく大きな「地球儀」があるのだ。

日本科学未来館」にある「ジオコスモス」だ。

日本科学未来館といえば、大人も子どもも楽しめる東京都民にとって定番のスポットになっている。

僕にとっても思い出の場所だ。宇宙の広さを知ったのも、はじめて宇宙食を買ったのも、ウェンディーズなのかファーストキッチンなのか最初に混乱したのもここだった。

この完璧な理論、どうよ。

 

とはいったものの、通じなければ意味がない。

公園から駅に向かっていると、さっき大外ししたダメージがじわじわと襲ってきた。すり傷と同じで、時間差で痛みが気になってくるやつ。

 

(みんな同じ場所に来てくれるのかな)
(答え発表でなんだこいつって思われたらどうしよう)

 

マイナスな考えがウォータースライダーのように次々と流れてくる。

「これ涼しげだな」と思って写真を撮ったけど今見るとまったく爽やかじゃない。それだけ変なメンタルになっていた。

電車に乗りながら、だんだん視界が地面に向いていく。

 

まさかのたどりつけず(2問目 - 移動)

「集合場所に着きました!」
「もうすぐで到着です」

画面に続々と通知がきた。

僕は1問目の場所が東京のはしっこだったので、まだ移動中だ。

競歩の選手のような勢いでゆりかもめに乗りかえた。

よし、あとは座っていれば着くはず。

突然、ガタンと止まった。

 

「ただいま、お台場海浜公園駅で傘が挟まったため、送電を切って電車を見合わせています」

 

ああ、これは。

2題目で時間をかけすぎると、4人分の出題が終わらなくなってしまう。

続けるためには、現地に行くのをあきらめるしかない。

仕方なく、背中を丸めながら電車を降りた。

2問目、まさかのたどりつけませんでした。

降りた場所は「竹芝駅」だった。

 

出口の先は、潮のにおいがした。視界が開ける。

あの先に、行きたかった場所がある。

日本科学未来館は、レインボーブリッジのさらに奥だ。

空と海が、今だけは暗い群青色に見える。

 

感情のジェットコースター(2問目 - 回答)

今の心情と真逆な、落ちついた波を見つめながら通話をつなげる。

今竹芝ふ頭にいます……。正解は日本科学未来館です
レインボーブリッジにいます。おしい!
羽田空港の屋上で飲むビールウマい
日本科学未来館にいます!
……! 同じ人いたああああああ!

海に向かって叫んでしまった。

高速道路に入るためにアクセルを全力でふんだのと同じようなテンションの上がり方だった。

人に当ててもらうのって、こんなにココロオドルものだったのか。

 

もし実際に会えていたらどうなったんだろう。

夏休み田舎に帰っておじいちゃんと再会した小学生みたいなリアクションをしてしまうかも。

2問目はみんな海寄り。(OpenStreetMapをもとに作成)

 

答えがわかるって気持ちいい(3問目 - 出題)

さて、この企画も折り返し地点だ。

次のお題は、エレファントカシマシの「It's my life」です!

動画はこちら 

新しいタイプの曲がきた。

今までの曲と違い、「東京タワー」「首都高」と具体的な地名が出てくる。

地名をもとにどこを選ぶかがキーになるってことか。

 

腕を組みながら、とりあえず最寄り駅に向かう。手がかりを整理しよう。

  • 首都高環状線
  • 東京タワーがバックミラーに映っている
  • カーブ
  • 海まで一直線

「首都高」の「東京タワーよりも海側」にある場所で、「カーブの先に海」があるような場所か。

そんな都合のいい場所あるわけ……

あるんかい!(OpenStreetMapをもとに作成)

 目的地が決まった。「首都高環状線、東京タワー付近のカーブが終わったところ」に行こう。

 

これは、今度こそ勝ちましたわ。

さっそく現地へ移動だ。

 

勝利の散歩(3問目 - 移動)

余裕ができると視界が上向きになる。

わかります。

今度は余裕を持って目的地の「芝園橋」に着いた。カーブが終わって海に一直線となる場所だ。

見てほしい、このカーブを。

左を向くと東京タワーがチラ見え。かんぺきな位置取りだ。

 

みんなが目的地に着くまで、お散歩しながら待っていよう。

首都高に負けない「いいカーブの文字」を見つけた。「ニュー」がつくとレトロな雰囲気になるの、言葉的には変だけど好き。

にぎやかな声に振り向くとスイカ割り大会の真っ最中だった。このあと子どもが10センチずれた場所を叩いててほっこり。

 

みんな近い!(3問目 - 回答)

15分後にみんな到着した。

さあ審判の時間だ。

赤羽橋にいます。正解は「首都高環状線の下、芝公園駅赤羽橋駅周辺」です!

すぐ近くの芝園橋にいます。よっしゃ!

浜松JCTの近くにいます。カーブでなく海のほうに来てしまった……!

大門駅のバーにいます。ビールうまい

 

ビンゴゲームで一番に上がったときの気持ちよさを思い出した。やったぜ。

みんな2キロメートル以内にいて近い!(OpenStreetMapをもとに作成)

このゲーム、完全に理解した。

まずは「理屈」と「想像」の二輪で範囲をしぼる。その二つを元に「適度な落としどころ」を見つけるのがコツだ。

 

さあ、どんな謎でもかかってきたまえ。

頭の中ではハンチング帽をかぶった探偵がパイプをくゆらし始めた。

 

最高難易度のラスト(4問目 - 出題)

最終問題は、Suchmosの「STAY TUNE」です!

探偵のパイプが、ポトリと口から落ちた。

ぜんぜんわからん……。

 

とりあえず、キーワードをいつもの要領で出してみる。

  • ブランドもの
  • 頭だけいい
  • 広くて浅い
  • Mで舞ってる

そもそも「Mで舞ってる」ってなによ。

僕の想像力では、「MANDARAKE(まんだらけ)」で掘り出し物を見つけて喜びの舞いをしているオタクしか思い浮かばない。

 

こういうときは足を動かしながら考えるに限る。いったん駅に向かおう。あごに手をそえながら歩いていると、駅の手前に気になるものを見つけた。

「広げよう納税の輪」

納税、か。

社会人になってわかったことがある。サラリーマンというものは、いろいろ考えなくていいのがメリットなのだと。どんな働きかたでも毎月一定の賃金をもらえるので、将来への不安が少なくなるのだ。

税金は引かれるが、企業が折半してくれていると考えればまあ許せる。

 

頭の電球が光った。

今回の問題、「大企業のサラリーマンがいる場所」が答えなんじゃないか。

理屈はこうだ。

  • 給与が高い → ブランドものを使ってそう
  • 学歴が高い → 頭のいい人が多い
  • 異動が多い → 知識が広く浅くなりがち

東京一のオフィス街といえば「丸の内」が浮かぶ。そして丸の内の中心にあるのは「東京駅」だ。

東京23区を舞台にした最終問題の答えが「東京駅」とは、なかなか粋なことをするじゃないか。

これは、再びもらったわ。

 

社会は思ったほどひねくれていない(4問目 - 移動)

ということでやってきました東京駅。

乗りかえで通ることはよくあるが、じっくりと駅舎をながめるのははじめてだ。

歴史のしみこんだレンガ造りをながめていると、時間の流れが早くなっていく。上京したての人の気持ちもこんな感じなのかな。

これが1万円札になるのもよくわかる。といいながらも実は新1万円札の実物をまだ見ていない。

ビルに囲まれて、駅だけ異世界転生してきたみたい。

カメラをかまえていると、ある場所に自然と吸いこまれていった。

さすが東京の中心、あざとい。

「逆さ東京駅」が見られる場所まで用意されているとは。

でも、オフィス街ならば観光客向けにここまでひねったことをしなくていいのでは?

JRはどんなことを考えてこれを作ったのだろう。検索っと。

水を張ることで夏場の路面温度上昇を抑制するとともに、視覚的にも安らぎと清涼感を感じていただけます。

JR東日本ニュースより引用)

実際は、映えのためでなく涼しく感じてもらうための設備でした。

ひねったことを考えているのは、JRではなく僕だった。

 

明らかになる「Mで舞ってる」意味(4問目 - 回答)

さて、そんなこんなでみんな「集合場所」に到着した。解答発表だ。

歌詞から「頭のいい若者」と「若者の街 渋谷」をイメージしました。「東大駒場キャンパス近くのマクドナルド」が答えです!

「金持ちの若者」をイメージしました。歌詞に風船があったので麻布のバルーンショップにいます

「大企業のサラリーマン」をイメージしました。東京駅に今います……

東急プラザ渋谷にいます! 歌詞からしぼりました。「広くて浅い」イメージの下北沢、「頭がいい」イメージの駒場東大前、「ブランド着てる」イメージの表参道。その中間から渋谷のどこかと考えました。さらに歌詞から音楽関係の場所からクラブが上階にある建物として「東急プラザ渋谷」が出てきました。そういえば、ここで朝から「酔っている人(屍のbad girl)」を見たことがありますね

 

ああ、読み違い再び。

たしかに曲調は若者向けのバーで流れていそうな感じだった。サラリーマンが集う居酒屋ではないな。

 

あと、歌詞の中にあった「Mで舞ってるやつ」をすっかり忘れていた。

「M(マクドナルド)で待ってるやつ」が正解だったとは。

4問目は「歌詞で集まる」の深みを感じさせる問題でした。

みんな都会には集まってる。

 

思った以上に楽しかった

終わったあと、時間のある3人で打ち上げをすることにした。

渋谷駅のハチ公前に行き、LINEで場所を伝えあう。おかげで人混みあふれる中でもすぐに会えた。

現代の待ち合わせは、どこか味気ない。

 

ただ、普通の待ち合わせとの違いが現れたのはここからだった。

お店に入ってカレーをつつく。今日の感想を言い合っていると、気づいたら3時間もすぎていた。

昔の待ち合わせには、人との距離を縮める効果があったのだ。

曲で集まる会、オススメです。

ジャガイモが丸ごと出てくるカレー屋は美味しい法則。

 

お知らせ

今回の企画は、別視点での記事も同時に公開されています。そちらもぜひご覧ください!

また、2024年12月1日の「文学フリマ東京39」に参加します! 今回の内容を加筆修正し本にする予定です。

伊豆の隠れた珍スポット「メンテくん」を推す!

伊豆は珍スポットの聖地だ。

金塊を買ったら価値が上がりすぎて展示できなくなった「土肥金山」、歴史的な由緒がない「熱海城」など、変な場所がとにかく多い。

そんな伊豆を散歩していると、突然「野生の珍スポット」に出会った。

ネットで調べても情報はゼロ。

それでありながら、有名観光スポットから徒歩3分と謎にアクセスが良い。

今回は、そんな伊豆の神秘を紹介します。

 

伊豆の散歩

ヤツに会ったのは、伊豆の珍地名「理想郷」へ行こうとしたときのことだった。

「理想郷」は、この神社のさらに奥にある。

「面白いスポットに出会えますように」と本堂にお参りして、目的地へ出発だ。

右奥の道を進んでいく。

気持ちいい竹林を進んでいくと――

なんじゃこれは!?

神社のお願いが叶う最短ギネス記録、更新しました。

 

よーく見てみよう

Unity(ゲームエンジン)のファイルを開くと、PCの動きが重くなることがある。描画する物が多いほど、ファイルの容量が増えPCの負担は増えていくものだ。

今、同じように脳内がフリーズしている。

現実世界の情報量が多すぎる。

頭の上で、はてなマークが手をつないでマイムマイムを踊りだした。

これだけでお腹いっぱいだ。

 

普通の風景を見たくなって遠くに目をやった。

右の口角だけが上がった。ひきつった笑いがでた。

どこまでも続いてやがる。

ただ、一つだけ強く伝わってきたことがある。

これを作った人の情熱だ。

オーケーわかった。

こうなったら、その熱意にどこまでも付き合ってやろうじゃないか。全力で味わってやろう。

 

ちなみにこのコレクションたち、20メートルもある。

ここからは、わかりやすいように「三つのエリア」に分けて紹介していく。

「① 駐車場付近」「② プレハブ小屋付近」「③ 民家付近」の三本立てでお送りします。

 

メンテくんは警備員(① 駐車場付近)

さて、改めて謎めいた「メンテくん」と向き合う。

「メンテくんだよ! はじめまして」

はじめまして。おじぎをした。

気圧されないように深呼吸してジト目のメンテくんを見つめ直す。すると、彼の言いたいことが伝わってきた。

右手が指す先を見てほしい。腰の札を見てほしい。

よく見ると、「立ち入り禁止」を訴えているではないか。

 

メンテくんの正体は、駐車場への侵入を防ぐ警備員だったのだ。

 

ちなみに、注意喚起はメンテくん以外にも個性的なメンツがそろっていた。

無断立ち入り、1万円いただきますよ!

天使「無断立入 本当に1万円ダヨ」

本当だよ!

センサーらしきものにはミラーボールが。

これ踏んだらどうなるんだろう……?

立ち入り禁止を訴えているのに、個性が強すぎて伝わらなくなっているこの本末転倒なところ、僕は大好きです。

 

「メンテ」の意味がわかった!(② プレハブ付近)

メンテくんの正体がわかったと先ほど書いた。

ごめんなさい。それは思い上がりでした。

というのも、メンテくんは彼一人ではなかったのだ。

たてがみが舵のメンテくんだよ!

ぬりかべメンテくんもいるよ。

水道管メンテくんだよ

では、メンテくんの「メンテ」って何だろう。

コレクションをながめて足を進めていくと、おさるさんが答えを教えてくれた。

だんだん世界観になじんできた自分がいる。

「伊豆メンテ」という会社の敷地だったのか。

さらに進んだ先には、コレクションに埋もれるようにその事務所があった。あるんだ。

入口もびっちりとブツで囲われている。

ちなみに金欠だそうです。

呼び鈴はゴングだった。格闘技以外で使われることあるんだ。

今日はお盆の休日なので、残念ながら人はいなかった。いろいろ聞きたかったのでちょっと残念。

事務所の裏ではタイムリップが楽しめます。

ブルース・リーの名言「考えるな、感じろ」を、今人生で一番かみしめている。

 

仕掛け人がわかった!(③ 民家付近)

速報です。こちらのコレクションについて新しい情報が入りました。

このコレクションたち、実は売っているらしい。

「もし欲しい物があったら販売します」

よく見るとコレクションの一部に値札がある。今までインパクトに押されて気づかなかった。

大黒天のコスプレをしたブタ、500円。

かっこいい獣は5000円。でも地味なウシは500円。

陶器のカバン、500円。

「ほしい」と「ほしくない」を絶妙に反復横跳びするラインナップがたまらない。

 

さて、駐車場と伊豆メンテの事務所を通りすぎると、コレクション地帯の終わりが見えてきた。

パン食い競争のように垂れ下がっているものの正体は――

「お土産のキーホルダー」でした。

キョロちゃんだ! 異物の中に知ってるものがあってときめいた。珍スポで吊橋効果を味わうことになるとは。

事務所を通りすぎてもまだコレクションは続いていた。

それどころか、隣の民家の生垣にも浸食が広がっている。

これ、怒られないのかな。

そう思いながら家の入口をのぞくと、自分の解釈がまちがっていたことに気づいた。

敷地内にも異空間が!

花が咲いていそうな植えこみに、置物の数々が並んでいる。この風景、見覚えしかない。

間違いない、ここに住んでいるのは伊豆メンテの人だ。

さらに見ていると、誰かわかりました。

「田畑さん宅だよ」

田畑さん、先ほどの看板に出ていた名前だ。

たしかに「伊豆メンテ(田畑)」とあった。

田畑さん、ありがとう。おかげで楽しい時間がすごせました。

 

伊豆メンテおもしろいよ、本当だよ!

すべてを見終わった。残ったのは、マイナーなのに出来のいい映画に出あえたときのようなすがすがしさだ。

時計の針は20分も進んでいた。

 

そういえば、このスポットっていつからあるんだろう。

検索すると、関連情報はまさかのゼロだった。こんな濃さなのに、誰もここ知らないの……?

では別の手段だ。グーグルストリートビューで過去の景色を見てみよう。

はへって声が出た。

もっとも古い2012年の写真に、すでにコレクションが写っているではないか。

田畑さんの家、2012年時点で今の面影がありすぎる。

 

珍スポ密集地帯の伊豆には、10年以上も前から人知れずたたずんでいるスポットがあった。

しかも、ひっきりなしにお客さんが入る遊園地から歩いてすぐの場所に、だ。

 

ぜひ、興味があれば立ち寄ってみてほしい。今まで感じたことのない感情を得られること、間違いなしだ。

世界最高齢のおばあさん、ここにいました。

杉並区の阿佐谷に「原発」があった

さいころもらった東京の地図が見つかった。懐かしいなと開くと、住宅地に「原発」の文字があった。

どういうこと? 実際に行って確かめてきました。

 

駅チカの原発

中学生のとき、東京の地図帳をもらった。大人の一員に足を踏み入れたような感覚に姿勢が良くなった。

部屋の整理をしていると、久しぶりにその地図と目が合った。

大学受験もこの地図のお世話になった。方向音痴なので、本番の日に地図を見ながら駅チカ徒歩1分の道に迷ったのもいい思い出だ。

懐かしいなーと開くと、見つけた文字にフリーズした。

杉並の住宅地に、「原発」の文字がある。

三度見した。見間違えではない。

このあたりを歩いたことはあるが普通の住宅地だった、はず。

いったい何者なんだ。

 

一つ、仮説を思いついた。

「アパートの名前を省略したら『原発』になった説」だ。

 

アパートの名前とは自由なものだ。所有者の個性やセンスが爆発しているものが多く、街歩きに花をそえてくれる。

ミステリー小説に出てきそうなものから、

ファンタジーの呪文まで幅広い。

「敵役の四天王」か?

ら・ふにゅ~

そこでだ。たとえば「原 発雄」みたいな名前の人がアパートを建てて、「原発雄ハイツ」みたいな名前をつけたとかどうだろう。

それが地図にのるときに省略されて「原発」になった、とかありそうじゃない?

 

では、実際に行って確かめてみよう。

 

原発の場所に行く

ということで、阿佐ヶ谷駅に降り立つ。ここから10分もしない場所に「原発」がある。

東側のガード下を進んでいく。

カフェやケーキ屋が並ぶおしゃれ空間に足がすくむ。

と思いきや、「日高屋」「さぼてん」と庶民的なお店が並んでいて落ち着いた。

駅を離れるにつれ、飾らない空間になっていく。美容室vs床屋。

ここまで弱気な名前の麻雀屋、あるんだ。
(フリテンはミスしてなりがちな状態のことで、負けることが多い)

と思いきや、なぜかおしゃれ空間が戻ってきた。その理由は――

ここ、実はかつての「阿佐ヶ谷アニメストリート」だ。

そういえばあのころ、この場所を舞台としたアニメも放送していたっけ。

 

脳内で空想シーンが流れ始めた。

 

そのアニメの名は「アクエリオンロゴス」だ。

作品内では、阿佐ヶ谷駅の地下に世界の危機を救う機関があり、指揮所のある中心地がここ、アニメストリートの直下だったのだ。

tenyard.hatenablog.com

普通の町並みになった今はどうなっているかなと歩くと――

ヒーロー養成機関に

「叡智の学校」エリート養成機関だった。まさか、世界の危機に今も備えている……?

「人生で一度も書いたことがない漢字」が並んでいる。未来のエリートに先を越された。

 

物語では、阿佐谷の機関のおかげで世界の破壊は防がれた。

あれから時がすぎ、アニメストリートは姿を変えた。しかし、その面影は残っているのだ。

 

そんな妄想がどこまでも広がっていく。

「現実の阿佐谷」と「アニメの世界に出てきた阿佐谷」の境界があいまいになっていく。

歩いているときにこうやって思考を広げていくのが好きだ。

 

と、さらに思いついた。

そういえば、地下の基地はどうやって電力をまかなっていたのだろう。地下にはロボットもあったので普通の電気だけでは足りないはず。

もしかして、地下に原発を建ててたりして……?

 

いよいよ到着

ガード下を歩いて6分後、右折し住宅地へ入っていく。まもなく目的地だ。

原発は今どうなっているのだろう。

右折した先にあるのは暗渠道だ。入口のカエルが目印。

さらに右折し、住宅地を歩いていく。新旧混ざった時代が折り重なる街並みを歩くのが好きだ。

地図の場所に到着した。

あった。建物だ。

おしゃれなアパートだ。

予想したとおりの光景によしっと手をにぎった。

あとは建物の名前だ。どれどれ。

アパート名は「felice」。「frliceⅠⅡⅢ」が並んで建っている。

アパート名は「原発」とつながりようのない名前だった。

地図を見直す。場所はやはりここで合ってる。

ドユコト?

あまりにありきたりな光景に、脳内に広がっていたアニメの世界がしゅん……としぼんでいった。

 

調べて見えた「原発」の正体

原発は一体何者なんだろう。ここからは机上調査だ。

いったん情報を整理しよう。

・ 2000年代の地図に「原発」があった。
・ (2016年に「アクエリオンロゴス」放送)
・ 現在(2024年)は「felice」というマンションがある。

となると、見るべきは「felice」ができる前に何があったのかだ。

まずはグーグルストリートビューで見てみよう。これを使うと、過去の町並みをさかのぼることができる。

一番古いのは2013年だった。どれどれ。

felice以前の建物(=原発?)が解体されていた。おしい……!

次だ。

今度は図書館で地図を見ていこう。

物件の中身まで詳しく書いてある『ゼンリン住宅地図』を手に取って、ページをめくる。

あった。

やっと「原発」の文字に会えた。
(『ゼンリン住宅地図 東京都杉並区 2006/11月版』を元に作成)

地図の「原子力」は、「原子力の会社の寮」を省略したものだったのだ。

現実は、原発雄ハイツよりもずっと納得のいくものだった。

「そういうことか!」と叫ぶのをこらえ(図書館なので)、思いっきり伸びをした。

 

これにて一件落着だ。

 

終わりに

そういえば、アパート名の「felice」ってどういう意味なんだろう。

画面に出てきたのは、「幸福」の二文字だった。

FELICE(フェリーチェ)は、イタリア語で幸福を表します。

PIANO ISOLA

その文字列に妄想スイッチがONになる。

世界を救った彼らが残したモニュメント、これがその建物なんだ。

平和で幸せな日々が始まり地下の施設は役割を終えた。カモフラージュとしてのアニメストリートもなくなった。

そのあとに彼らだけがわかるようにさりげなく残した名前がこのアパート名なのだ。

原発」の正体を見に行くだけのはずが、アニメの世界にひたる散歩になっていた。これも「アニメのまち杉並」だからこそできることだ。

 

阿佐谷には、かつての原発とアニメと幸せがあった。

「ロボットアニメっぽいアパート」もあるよ。

明治時代のガイドブックで熱海観光すると、熱海が今人気な理由がわかった

文明が花開いた明治時代は、どのようなスポットが人気だったのだろう。

今回は、116年前のガイドブックを使って熱海の観光をしてみよう。

実際に回って見えてきたのは、熱海が今でも人気の理由だった。

熱海、人を楽しませようとする熱量がすごい。

※この散策は2023年2月に行ったものです。

 

116年前に書かれた観光の本

以前、伊豆について書かれている「明治時代のガイドブック」を見つけた。

誰でも読むことができる。ありがとうインターネット。

これを使って伊東の街を観光したところ、違った時代の人と一緒に歩いているような普通の観光で味わえない体験ができた。

dailyportalz.jpとなると再びやってみたくなるもの。お次は、伊東と同じように温泉町で有名な熱海に行ってみよう。

印刷していざ出発!

 

熱海といえば温泉

『伊豆新誌』の熱海の章は、このような文章から始まっている。

いきなり「温泉」が出てきた。今の熱海も温泉のイメージがある。同じだ。

では、明治時代から温泉地だった熱海は、現在どのぐらいにぎわっているのだろう。

さびれたとか復活したとかうわさに聞いたことはあるが、どっちなんだい。

 

熱海駅の改札を出る。駅前に広がる光景に、足が止まった。

ベンチの手前に靴が並んでいる。ということは――

足湯だ!

駅から徒歩10秒に温泉があった。いきなり熱い歓迎だ。

最初からクライマックスの風景に、期待が湯気のように高まっていく。

 

さあ、スポットめぐりを始めよう。『伊豆新誌』によると、古くからある源泉が七つあるとか。

さっそく町へ繰り出そう。

商店街がワイワイにぎわっていてびっくり。みんなどこへ向かっているのだろう。まさかみんな源泉めぐり?

中央には昔の写真が展示してあった。この写真、あとで出てくるので覚えておいてください。

にぎわう理由がわかった。「熱海プリン」「熱海ミルチーズ」「熱海ばたーあん」とご当地スイーツ店がいたるところにあり行列している。あとで買おう。

さて、最初に来たのは七源泉の一つ、「①野中湯」だ。

果たして残っているかな。足を進めると、道のはしっこに存在感を、いや湯気を放っているものが目に入った。

100年以上前から湧いているとは思えないほどの勢いだ。

七湯は今もしっかり残っていた。長らく会っていない友達と久々に再会したら元気でほっとしたときの気持ちに今なっている。

源泉の横には「熱海七湯めぐり」の看板もあった。

「古来から数ある源泉の中でも、熱海温泉の歴史に重要な位置をしめてきた『熱海七湯』。」

「源泉」という地味になりがちなスポットにここまでていねいな説明があるとは。

熱海、やるじゃん。

さて、ここからは残り六湯のうち五湯をダイジェストでお届けします。

「②風呂湯」。横の「水の湯」は1.5メートル離れたところに沸いていたとのこと。別々の温泉でぜいたくな交互浴ができる…ってコト!?

「③佐治郎湯」。通称「目の湯」の名のとおり眼病にきく言い伝えがあるが、

現在は効能がないそうです……。

「④淸左衛門湯」。「清左衛門がこの湯壺に落ちて焼け死んだのでその名が付いたといいます」怖いことがさらっと書いてあって二度見した。

「⑤法齊湯(小沢湯)」。大きな声で呼べば大きく湧き、小さい声なら小さく湧くという言い伝えがある。落ちた人(?)が湯量調節してたりしないよね……?

「⑥瓦湯」はなぜかお札だらけ。その理由をつい深読みしてしまう。心なしか寒くなってきた。

さて、ここで一つお知らせだ。実は、熱海七湯には一つ別格の存在がいる。

その名も「⑦大湯」だ。

 

姿を変えた「熱湯噴出」の今

『伊豆新誌』では、熱海七湯のうち大湯だけ別枠で紹介している。

その迫力、感じ取れるだろうか。

「地が震え山が裂け海が干上がる」とは、まるで災害が起きたような表現だ。これで温泉をイメージする人はいないだろう。

ただ、僕は知っている。それが大げさじゃないことを。

実は、さっきの商店街に昔の大湯の写真があった。そこに写っていたのは、文字どおり「飛龍」のように噴出する姿だった。

見てほしいこの噴出を。

見た目はもちろんのこと、「殷々轟々(いんいんごうごう)」と書かれた音もぜひ聞いてみたい。

目的地へ向かう足取りが早くなっていく。

すぐに到着した。

あれ? なんか思ったのと違う……。

姿かたちが写真と違う。噴出がない。

どういうことなんですかと看板を見る。

今は涸れているのか。

大湯は再現されたものだったのだ。脳内の飛龍が地下へもぐっていった。

「グオングオンゴー」

突然聞き覚えのある音が耳に入った。浮かんだのは、小さいころ、近所の蛇口で手を洗ったときの記憶だ。その蛇口は地下の井戸水を使っていて、蛇口をひねるとポンプがグオンと音をたてて動きだしたものだった。

今、そのポンプと同じ音を聞いている。

でも、なぜここで?

次の瞬間、疑問が解けた。

お湯(?)が「噴出」し始めた。

大湯の噴出は再現されていたのだ。

でも、正直ものたりない。モーターの震える音はしたけど、「地が震える」には程遠い。

では、なぜこんなスケールダウンしたのを再現したのだろう。

 

首をかしげていると、通りかかった人の会話が耳に入った。

「湯が噴き出てるやん」
「こんな温泉があったのか」
「ディズニーのアトラクションみたい」

そうか。形はともあれ残しておくことに価値があるんだ。それで興味を持ってもらえれば、歴史ある温泉地としての熱海をアピールできる。

そのためには、ただの看板だけでなく目立たせることが大事だ。

昔の姿を保存するだけでなく、必要であれば復元までしてみせる。そんな熱海に、古くからの観光地としての意地を見た。

大湯の横に江戸時代の犬のお墓があった。イギリス人外交官の愛犬が大湯の熱湯を浴びて亡くなったと書いてあってしんみり……。しかし、丁重に弔ってもらったことから日本が好きになり、イギリスが親日的になるきっかけになったという。「映像の世紀」に出てくるようなバラフライエフェクトな物語が眠っていた。

 

「はなはだ面白い景色」を見に行こう

さて、次は観光地の定番である「自然」だ。熱海には「錦ヶ浦」という名所があるらしい。

明治の人をして「はなはだ面白い風光」と言わしめた景色を見に行こう。

 

ということで、「念佛山」のふもとに来た。ずいぶん信仰が深そうな名前だ。寺社でもあったのだろうか。今はどうなっているのだろう。

ちょうど案内の看板があったので見てみると、

「熱海 秘宝館」

煩悩まみれになっていた。

 

さて、道路の横に階段があったのでおりてみよう。

位置的に錦ヶ浦が見える場所につながっていそう。

おりていく。

謎にエスニックな踊り場を通りすぎる。文化が混ざった空間が出現するのって観光地あるあるですよね。

ズーンザバーン。波音が近くなっていく。

5分ほど下っただろうか。ようやく視界が開けた。

海と雲と島と。

大パノラマが待っていた。

中央にある岩が、おそらく本にあった「兜岩」だ。昔の人もこうして眺めていたのだろうか。

ひたすら海が広がる光景に、時間の進みがゆるやかになっていく。

ふと、一つの場所に目が吸いよせられた。絶壁に謎の建物がある。

崖にそって建てるという発想がすごい。

これは明治時代になかった光景だ。

ところで、巨大なガラス張りの建物ってどこかで聞いたような。記憶に引っかかる。

嵐の日はとんでもない迫力が味わえそう。

そうだ、昔、台風でホテルのガラスが割れてニュースになったことがあった。

ここが、まさにその場所なんだ。

あれから5年。レストランは復活をとげていた。

険しい場所でも観光スポットを切り開き、険しい自然に負けても立ち上がる。そんなたくましい熱海の姿が目の前にあった。

展望台の真下には足場らしきものがあった。調べると昔釣り堀があったらしい。昔の人もたくましい!

 

古の神社で熱海の強さの理由を知る

さて、日本の観光の定番と言えば神社だ。熱海では「木宮神社」が当時有名だったとか。

木がうっそうしていて立派なクスノキが生えている神社があると。神社にご神木があるのはよくあることだ。正直、「割と平凡そう」と思ってしまった。

まあ、せっかくだし行ってみましょう。

場所は熱海の街中にあった。

この先が明治時代につながっていても違和感がないような、雰囲気のある入口だ。

お正月ではないのに人が多い。来宮神社は現代でも人気のスポットのようだ。

入ってすぐ右側に曲がる。うおっと声がでた。

語彙力がなくなる立派さ。

一体いつからここに立っているのだろう。平凡そうとか言ってごめんなさい。

説明看板を見ると、そこに書いてあったのは「第二大楠」。あれ? 第二ってことはもう一つ大木があるってこと?

 

参拝道を進んでいくと、その答えが立っていた。

第二よりもはるかにでかいクスノキがいた。

今度は「うおわぁー」って声が出た。「神威の尊さも思ひやらるる」は本当だったのだ。

 

ところで、見ていて気になるものがあった。

飛びこみ台みたいなのがある。

気になるので行ってみよう。

一本道を歩き、その場所に立ってみた。

クスノキの太さがよく見え迫力が増した。そうか、ここは「映えスポット」ってやつなんだ。

木肌のしわ模様をながめていると月日の流れがしみこんでくる。ながめていると心の波が落ち着いていく。まるで、大自然の川の中を漂っているような。

と、気づいた。どこかから水の音がする。

クスノキの右側に川が流れていた。

観光客の人ごみから距離をとり、せせらぎを聞かせて心を落ち着ける。この高台は、そんな高度な計算のもとに建てられたスポットだったのだ。映える写真が撮れるだけじゃなかった。

これだけ観光地としての力がありながらも、アイデアを練り続けてさらに魅力的な街を目指していく、そんな姿勢にすっかり熱海が好きになってしまった。

神社の境内にはカフェまでもがあった! ここのスイーツもおいしそう。熱海、まいりました。

 

まとめ

昔の観光地を回って見えてきたのは、過去の観光スポットを大切にしながら、たゆまぬ努力で人を呼ぼうと工夫をこらしていく熱海のたくましい姿だった。

明治のガイドブックで「現代」の熱海をここまで普通に楽しめるとは。いい意味で予想を裏切られた旅でした。

お土産に買った熱海プリン、おいしかったです。

ちなみに、熱海は明治時代の小説の「聖地巡礼」で栄えたという一面も持っている。が、そちらを書くと長くなってしまうのでまた別の機会に紹介しようと思う。お楽しみに。

「小田急」のスーパーが一店舗だけ「京王線」沿いにある

私鉄沿線の街では、私鉄を運営している企業が「生活の一部」になる。たとえば京王線沿いの住人は京王のバスに乗り、京王のスーパーを利用しすごしていく。それは小田急も東急も同じだ。

京王井の頭線」の三鷹台駅を降りたとき、予想外の看板が目に入り足が止まった。駅の横にあったのは「Odakyu OX」の文字だった。京王と小田急がぶつかっている。

Youは何しに京王へ?

理由を調べ見えてきたのは、実は小田急三鷹地域と深くかかわっていたという意外な歴史だった。

 

京王井の頭線にあるOdakyu OX

京王井の頭線は、「住みたい街ランキング」常連の吉祥寺駅から伸びている路線だ。その吉祥寺駅から二駅のひっそりとした住宅地に、三鷹台駅がある。

まずは、三鷹台駅前の写真を見てほしい。

横断歩道をまたげば行ける、まさに「駅チカ」な立地にヤツはいる。

小田急」が「京王線」沿いの駅前に居座っている。普通、駅チカの一等地には鉄道と同じ系列のお店が陣取っていそうなものなのに。

よく見ると「OX」にツヤがあるのがチャームポイント。

その違和感は、Odakyu OXの店舗一覧を見てさらに確信となった。三鷹台駅Odakyu OXは、「唯一小田急線沿いから離れている店」だったのだ。

三鷹台の存在感よ。(OpenStreetMapを用いて作成)

旅先で小さいうどん屋に入ったら、地元の人が10人ぐらいで宴会をしていてはしっこで小さく食べることになったときの心情を思い出した。

Odakyu OXは、なぜこんなアウェイな場所にいるのだろう。

 

三鷹台店はいつできた?

なぜ三鷹台にいるのか、一つ思いついた説がある。それが、
「これからOdakyu OXが各地へ進出しようとしている説」
だ。

つまり、Odakyu OXを増やすために、まずは三鷹台駅に新しく店を開店させたと。それが正しいなら、三鷹台店は割と新しくできたはず。

ぴっちりスーツを着こなし、薄いタブレットPCを片手に新天地に切りこんでいくメガネのお兄さんが頭に浮かんだ。脳内で三鷹台店が擬人化されている。

 

ではさっそくOdakyu OXの歴史を調べていこう。

図書館で小田急グループの歴史の本を手に取りページをはらりとめくる。そこには、スーパー事業としてOdakyu OXが増えていった過程がしっかり書いてあった。

年表にして紹介しよう。

Odakyu OXは意外と年季を重ねていて60歳だった。

東京オリンピックを控え、高速道路が建設されたり初の衛星中継が試みられたりと日本がイケイケだった時代に、その勢いに乗ろうと始めた事業だったということか。

さて、年表を続けよう。

いや4号店なんかい……! 図書館なので小声でつっこみを入れた。

しかも開店は58年前って。新事業どころか、地域にすっかりなじんでいる。

脳内の三鷹台お兄さんのしわが一気に増えておじさんになった。手に持ったタブレットPCはバインダーに、メガネは老眼鏡に変わっていた。

 

「これからOdakyu OXが各地へ進出しようとしている説」は間違いだった。

それ以降、手がかりはなく行き詰ってしまった。

 

現地での違和感

困ったときの最終手段、それが「問い合わせ」だ。ということで、Odakyu OXの問い合わせフォームで聞いてみることにした。神様仏様OX様。

 

返事を待ちながら三鷹台をふらふら歩く。

これは小田……急じゃなかった。

ありふれたことがでかでかと書かれている看板。

京王線沿いに小田急、か。実はほかにも小田急がいたりしないかな。

歩いていると、気になるものが目に入った。バス停だ。

あっ、これは……!

三鷹台で、Odakyu OX以外の「小田急」と目が合った。

そういえば、 三鷹地域には「小田急バス」が進出している。朝、京王バス小田急バスが並んで通りを進んでいるのもよく見る光景だ。

考えたことなかったが、なぜ小田急バス三鷹にいるのだろう。

ここにきて、なぜか謎がふくらんでしまった。

 

次の日、Odakyu OXから問い合わせの返事が帰ってきた。読んで思わず立ち上がった。

三鷹台店が小田急沿線以外の場所にあることにつきましては、店舗のある場所がかつて小田急バスの所有する土地であったことから、出店に至ったという経緯があるとのことでございます。

三鷹台のOdakyu OX小田急バスがつながった。

 

小田急バスの歴史を調べよう

Odakyu OXが建った場所は、以前より小田急バスが持っている土地だった。では、小田急バスはどういう経緯で三鷹台の土地を買い、なぜこの場所にOdakyu OXができることとなったのだろう。

ここからは、小田急バスの歴史をたどっていこう。

蛇足だが、資料は「東京都立図書館」に行って読んでいる。簡単に入館できるのに幅広く資料がそろっていてお気に入りの場所だ。

もう一度図書館で本棚に立つと、Odakyu OXを調べたときに手に取った「小田急グループ」の本の横に「小田急バス」の歴史が書かれた本が見つかった。こっちが正解だったのか。

「探した場所のすぐ近くに実は目的のものがあった」現象に誰か名前をつけてほしい。

席についてページをめくる。新たに見えてきたことがあった。三鷹は「小田急バス発祥の地」だというのだ。

さらに、本には「Odakyu OX」の文字もしっかり入っていた。

そういうことだったのか。

ここからは、小田急バスの始まりからOdakyu OX三鷹台に上陸するまでの流れを紹介していこう。ちょっと長くなりますがおつきあいください。

 

1. 小田急バス三鷹で始まる(1950年)

小田急バスの始まりは1950年にさかのぼる。Odakyu OXができるさらに13年前だ。

戦後まもなく、小田急はあせっていた。都内のバス事業に進出したい。でも、主要なバス路線はすでにおさえられている。

どうすれば。

考えたのが、「既存のバス会社を買収する」という一手だった。その対象になったのが、三鷹地域で運行している「武蔵野乗合自動車」だ。

武蔵野乗合自動車が最初に始めた路線は「吉祥寺 - 野崎 - 調布」だった。三鷹市の真ん中を突っ切るルートで、今も小田急バスが運行している。(『写真集 みたかの昔』より)

こうして無事に買収が終わり、三鷹の地に小田急バスが上陸した。

三鷹は、小田急とは縁もゆかりもない場所だと思っていた。でもそうではなかった。

小田急バス三鷹から始まったのだ。

 

この時期の三鷹の交通を調べると、「三鷹事件」という列車暴走事件がでてきた。「国鉄三大ミステリー」と言われているとか。それだけ混沌とした時代だったのだろう。(『写真集 みたかの昔』より)

 

2. 三鷹台に路線を作ろう(1955年)

小田急バスが事業を始めてから取り組んだことが「路線の開拓」だった。そこで目をつけた場所の一つが「三鷹台」だ。

1955年、申請していた「三鷹台 - 牟礼 - 吉祥寺」のバス運行の許可が下りた。

こうして、いよいよ小田急三鷹台の関係が始まった。

運行当時の写真があった。今三鷹にこういう場所があったら「映えスポット」として人気が出そう。(『写真集 みたかの昔』より)

ところで、バスを運行するために必要なものがある。それが「車両引返場(終点でバスがUターンするための場所)」だ。ここで、三鷹台の新路線のために小田急バスが駅前の土地を取得することとなった*。

Odakyu OXができる前の空撮写真を見てみると、たしかにバスが停まりそうな広場があった。(今昔マップを用いて作成)

*状況的に引き返し場のために土地を取得したと考えられるが、正式な取得の記録は見つからなかったため推測が含まれている。

 

3. 小田急バスの方針転換(1960年代)

町の発展とともに順調にバス路線を広げていった小田急バス。しかし、成長はどこかでいきづまるものだ。

1960年代の半ばに入ると、バス事業の利益がだんだんと減っていくことになった。ここでうまく策を練っていかないと、東京チカラめしやタピオカ屋と同じ運命をたどってしまう。

対策として行われた一つが、「路線の統廃合」だった。

当時の運行を見ると京王と小田急の両方がいた。今も続いている小田急と京王のバスが並ぶ姿は、50年以上前からあったのか(『三鷹市 社会生活の諸相』より)

それにより、三鷹台駅のバス路線も終了になったと思われる。

はっきりとした記録は残っていないが、いろいろな資料の中で最後の記述があったのは、1964年となっていた。

その結果として残ったが、三鷹台駅前の土地だ。

 

4. 新事業を「安全」に始めたい!(1966年)

小田急バスが経営を安定させるために、もう一つ考えたことがある。「事業の多角化」だ。

バス以外で何か始めたい。

そういえば、各地の路線を廃止した結果、ぽつんと残ったものがあった。そう、「車両引返場」の土地だ。

その土地を貸せばいいんじゃね?

こうして、小田急バスの新事業「不動産業」が幕を開けた。

本によると、小田急バスが持っている土地は意外と数多くあるらしい。吉祥寺駅前のこのビルも実は小田急バス所有だとか。

しかし、始めるにあたり問題があった。皆さんは初めて物事を始めるとき、経験や知識不足で苦労をしたことがあるだろうか。

僕は小学生のころ、始めたばかりのデジモンカードを友達と交換したら明らかに損な取引をしてしまい、泣きながら帰った悲しい思い出がある。カード名が黄色いメタルグレイモンのあのカード、今でも元気かな。

失敗しないように、最初は安心できる相手と取引してノウハウをためたい。そんなとき、まさにうってつけの存在がいた。

同じ小田急系列であるオー・エックスだ。

 

オー・エックス「どこかにスーパーマーケット建てる土地ないかなー」

小田急バス三鷹台に駅チカ物件あるよ!」

 

こうして、「便利な土地が欲しいオーエックス」と「信頼できる相手に土地を貸したい」小田急バスが出会い、がっちりと手を結ぶこととなった。

三鷹台駅のOdakyuOXは、小田急バス側とOdakyu OX側の思惑がちょうどいいタイミングでかみ合って生まれた、奇跡のような店舗だったのだ。

 

終わりに

ようやく、三鷹台のOdakyu OX京王線沿いに唯一建っている理由がわかった。一つのお店を調べるはずが、ここまで小田急の深みを知ることができるとは。

そんなことを考えながら問い合わせを見返していると、気になる一文に目がとまった。

小田急沿線以外の店舗としては、現状、三鷹台店のみとなっておりますが、今後につきましても条件等が合えば、沿線以外への出店も積極的に考えてまいります

小田急がさらに広がっていく姿、見てみたい。

もし実現したら、バス事業と同じように、「Odakyu OX」と京王のスーパー「京王ストア」で勢力を競い合うことになったりして。

 

そういえば、京王のスーパーの分布はどうなっているんだろう。地図を見て、うぉっと声が出た。

駒井店だけ、小田急線沿線にいる……! (OpenStreetMapを用いて作成)

戦いはすでに始まっていたのだ。

それでは、次回作「『京王』のスーパーが一店舗だけ『小田急線』沿いにある」で会いましょう。

 

参考文献