
ある日、竪穴住居の面白さに気づいた。
竪穴住居は、日本でもっとも多く復元されている遺跡だ。
なのに、「本当の姿」を誰も知らない。

それならば、復元された竪穴住居は、正解がないぶん自由に造られているんじゃないか。
そこで、東京にある竪穴住居11カ所を回ってみることにした。
見えてきたのは、ある住居は焚火体験ができたり、ある住居は当時の食べ物紹介に全力を注いでいたり、ある住居はVRアプリを作っていたりと、個性豊かな姿だった。
今回はそんな竪穴住居の世界を、五種類にわけて紹介します。
1. ○○でできた竪穴住居
突然ですがクイズです。
東京の竪穴住居の屋根に最もよく使われている素材は何でしょう。
正解は――


正解は、コンクリートだ。
実は、東京の半分近くの竪穴住居はコンクリでできている(11カ所中5カ所)。
理由は簡単で、草木で造ると維持するのが大変なのだ。
コンクリの屋根ならば頑丈で雨もりの心配もない。
本物じゃないじゃんとがっかりした人、ちょっと待ってください。
面白いのはここからだ。
これらの竪穴住居には、コンクリ製だからこそできる工夫がされているのだ。
ポイントは、家の内側にある。
中にお邪魔してみよう。



実は、コンクリ竪穴住居の内側には、必ず「当時の生活」が再現されている。
これが、どれも個性豊かで味わい深いのだ。






竪穴住居の中には、「古代に興味を持ってほしい」という、竪穴住居を復元した人の「サービス精神」があふれていた。
さて、そんなサービス精神は、竪穴住居の外にまであふれだしているときがある。
それもまた味があっていいので見てほしい。


2. 古代にひたれる竪穴住居
先ほど紹介したとおり、多くの竪穴住居では中に入ることができない。
でも、せっかくなら入ってみたいと思いませんか。
実は、それがかなう優良物件、あります。
しかも、駅から徒歩4分という便利さで。
今なら隣に遊園地もつけちゃいます。
次の目的地は、サンリオピューロランドのお隣だ。
その名も「縄文の村」だ。
ここには竪穴住居が3棟も復元されている。

当時の素材を使っている本格仕様を目にすると、「彼らがかつて本当にいたんだな」と自然と思えてくる。
こちらの竪穴住居は、中に入ってもいいらしい。


昼なのに夕方のような暗さの部屋に、間接照明のように光が差し込んでくる。
これ、ずっといられるかも。
筋状の光が、普段忘れている本能に訴えかけてくる。
もっとゆっくりしようよと。
五感が鋭くなり、外から聞こえる鳥の音がやけに大きく聞こえた。
しばらく天然の薄明かりをながめてすごしていると、
「ガタンゴトン」
いきなり現代に引き戻された。
そういえば、ここは駅チカ線路チカの物件だった。
さて、すぐ近くにあるもう一つの住居に行くと、こちらは窓から煙が出ているではないか。

中をのぞくと、職員のおじさんが火を焚いていた。
どうやら、古代の暖炉体験ができるらしい。
入口をくぐると、先ほどの竪穴式住居より明るかった。焚火のおかげだ。

やっぱり火は落ちつk――
ゴホッと咳こみそうになった。
これ、思った以上に煙たいです。
焼肉屋に行って換気扇が壊れているような環境を想像してほしい。
古代の日本人も、煙が目に入って涙ぐんでいたのかな。

3. 立ち入り禁止のその訳は?
本格式の竪穴住居は中に入ることができることがわかった。
せっかくなのでもっと行ってみたい。
暗い住居でくつろぎたい。
次は、原宿から一駅という都心にある竪穴住居に足を運んでみよう。


代々木の竪穴住居は、中に入るどころか近づけなくなっていた。
こうして、「本格の竪穴住居 = 中に入れる」法則は崩れ去った。
さらに残念なことに、立ち入り禁止の竪穴住居は一つではなかった。


一つだったら偶然と言える。しかし、二つもあるのならば何か理由があるはず。
説明の看板を見てみると、気になる共通点が二つあった。

まず一つが、藤島亥治郎博士なる人物が復元にかかわっていたということ。
もう一つは、どちらも1950年代に復元された古株だということだ。
70年前というと、まだ日本が戦後の復興を成し遂げようとしている時代だ。
実は、これらの竪穴住居に柵がある理由は、戦後の日本と大きなかかわりがある。
竪穴住居に脚光が当たったのは、戦後に入ってのことだった。
というのも、戦前・戦時中の歴史観では、「日本の神(=天皇の始祖)が国を造った」とされていた。
なので、国ができる前から存在していた縄文人は、日本人の祖先ではなく「先住民」と考えられていた。

しかし、戦後その考えが否定され、日本のルーツが宙に浮いた。新たなアイデンティティを探すべく進められたのが発掘だ。
日本の古代史の探求は、戦後から本格的に始まったのだ。
その流れで新たに始まったのが、遺跡を展示したり復元したりすることだった。
ここで、戦後まっさきに復元された竪穴住居の一覧を見てみよう。

※復元自体は戦前に行われた記録があるため、日本初ではない。
竪穴住居の復元を最初に行った一人、それが藤島亥治郎氏だったのだ。
そして代々木と練馬の住居は1951年、1957年と当時の時代に近い。
つまり、今回訪れた竪穴住居は、古代研究の黎明期に造られた「竪穴住居復元の始祖」に近い建物だったのだ。
そう考えると、保護されている理由も納得がいく。
入れないなんて文句を言って、なんかごめん。
4. 新しい竪穴住居
柵の中にある竪穴住居の正体は、70歳を超える大ベテランだった。
では、逆に最新の竪穴住居はどうなんだろう。
調べると、たった3年前にできたばかりの竪穴住居があるというではないか!
さっそく行ってみよう。

そこにあったのは、汚れ一つないタイル張りの道に、シミ一つない解説の看板だった。
その奥には竪穴式住居がチラリと見える。
駆け足で向かうと、その足が止まった。
竪穴住居に異変が起こっていた。
もしこれが8番出口だったら、引き返すだろう。

屋根が、今までの「カヤ」(またはカヤ風のコンクリート)ではなく、「土」なのだ。
どういうこと??
なぜカヤではないのだろう。
首をかしげながら公園を歩くと、その理由が見つかった。

2棟の竪穴住居は、最新の研究成果から、これまでの主流であった萱葺き屋根ではなく、土屋根で復元しています。
この竪穴住居は、最新の研究成果のたまものだった。
普通の住宅地の真ん中にポツンと立っている家が、古代史研究の最前線を表しているというそのギャップ、良くないですか。
では、中に入ってみよう。

まっさきに感じたのは、「清潔感」だった。
屋根の枝は、フリーハンドっぽくありつつも整然と並んでいる。
枝の上に敷きつめられた木の皮は一つもほつれていない。
「新築の古代の建物」という矛盾にそわそわする。
さて、周りを見渡すと、現代のものが目に入った。

取り出したものを見て笑顔になった。
そうそう、僕が見たかった「最新」って、こういうやつよ。

下野谷遺跡を楽しめる「アプリ」があるらしい。
最新の竪穴住居、サービス精神がありすぎる。
持っているスマホではバージョンが非対応だったので、家に帰っていじってみることにした。

軽い気持ちで起動してみた。
ふむふむ。なるほど。
頭を上げると、あっという間に10分が溶けていた。
このアプリ、思った以上に中身がしっかりしている。



これ、興味があればどこまでも深掘りできてしまう。
遺跡のファンを増やそうという気概が伝わってくるアプリだ。
ところで、これはどこが「VR」なのか。
いじっていてすぐにその理由は分かった。
言葉よりも見るのがわかりやすいと思う。

実際に画面の向こうに縄文時代が広がっている。
新しい竪穴住居は、建物の素材も技術も最先端だった。
5. 土に還りゆく竪穴住居
竪穴住居には、お城やお寺のようなはっきりとした由緒がない。
それは、文化財としての価値が弱いということでもある。
そのため、壊れたあとに修復をあきらめて放置されたり、公園のリニューアルで消えていったりする竪穴住居も意外と多い。
最後に紹介するのは、役目を終えた竪穴住居だ。

2021年、江戸東京たてもの園では「縄文時代をテーマにした特別展示」が行われた。
その目玉として、竪穴住居が復元された。
その住居が今も残っているという。
今も元気にしているかな。
その場所に着いた。
思わず目をそらした。

特別展示の終わりとともに、この住居は役割を終えた。
そのため、手を加えられることもなくひっそりと余生をすごしているのだろう。
竪穴住居は手が入らないと、5年でここまでになってしまうのか。
実は、今回調べてみると東京ですでになくなった竪穴住居が3カ所も出てきた。
やがてこの住居もその一員になっていくのだろう。
いつまでも、あると思うな竪穴住居。
※「井の頭公園」「猿楽古代住居跡公園」「中野区立平和の森公園」の3カ所
終わりに
竪穴住居を回る前は、正直どれも同じだろうと思っていた。
しかし、古代人の生活を復元していたり、時代によって素材が変わったり、復元住居自体が文化財になっていたりとみんな違った顔をしていた。
復元された竪穴住居は全国に約180か所もあるという。
もしかしたら、皆さんの近所にもあるかもしれない。
気になる場所があれば、ぜひ早めに行ってみてほしい。
きっと、その場所だけが持つ個性を見せてくれるはずだ。
竪穴住居、奥が深いぞ。
東京の竪穴住居地図
参考文献
- 山内清男『日本遠古之文化』
- 東京都江戸東京博物館『東京に生きた縄文人』
- 山本俊廣『縄文大躍進~竪穴住居二五二+α』






































































































































