
小さいころもらった東京の地図が見つかった。懐かしいなと開くと、住宅地に「原発」の文字があった。
どういうこと? 実際に行って確かめてきました。
駅チカの原発
中学生のとき、東京の地図帳をもらった。大人の一員に足を踏み入れたような感覚に姿勢が良くなった。
部屋の整理をしていると、久しぶりにその地図と目が合った。

懐かしいなーと開くと、見つけた文字にフリーズした。
杉並の住宅地に、「原発」の文字がある。

このあたりを歩いたことはあるが普通の住宅地だった、はず。
いったい何者なんだ。
一つ、仮説を思いついた。
「アパートの名前を省略したら『原発』になった説」だ。
アパートの名前とは自由なものだ。所有者の個性やセンスが爆発しているものが多く、街歩きに花をそえてくれる。




そこでだ。たとえば「原 発雄」みたいな名前の人がアパートを建てて、「原発雄ハイツ」みたいな名前をつけたとかどうだろう。
それが地図にのるときに省略されて「原発」になった、とかありそうじゃない?
では、実際に行って確かめてみよう。
原発の場所に行く
ということで、阿佐ヶ谷駅に降り立つ。ここから10分もしない場所に「原発」がある。
東側のガード下を進んでいく。




(フリテンはミスしてなりがちな状態のことで、負けることが多い)

ここ、実はかつての「阿佐ヶ谷アニメストリート」だ。
そういえばあのころ、この場所を舞台としたアニメも放送していたっけ。
脳内で空想シーンが流れ始めた。
そのアニメの名は「アクエリオンロゴス」だ。
作品内では、阿佐ヶ谷駅の地下に世界の危機を救う機関があり、指揮所のある中心地がここ、アニメストリートの直下だったのだ。
普通の町並みになった今はどうなっているかなと歩くと――



物語では、阿佐谷の機関のおかげで世界の破壊は防がれた。
あれから時がすぎ、アニメストリートは姿を変えた。しかし、その面影は残っているのだ。
そんな妄想がどこまでも広がっていく。
「現実の阿佐谷」と「アニメの世界に出てきた阿佐谷」の境界があいまいになっていく。
歩いているときにこうやって思考を広げていくのが好きだ。
と、さらに思いついた。
そういえば、地下の基地はどうやって電力をまかなっていたのだろう。地下にはロボットもあったので普通の電気だけでは足りないはず。
もしかして、地下に原発を建ててたりして……?
いよいよ到着
ガード下を歩いて6分後、右折し住宅地へ入っていく。まもなく目的地だ。
原発は今どうなっているのだろう。


地図の場所に到着した。
あった。建物だ。

予想したとおりの光景によしっと手をにぎった。
あとは建物の名前だ。どれどれ。

アパート名は「原発」とつながりようのない名前だった。
地図を見直す。場所はやはりここで合ってる。
ドユコト?
あまりにありきたりな光景に、脳内に広がっていたアニメの世界がしゅん……としぼんでいった。
調べて見えた「原発」の正体
原発は一体何者なんだろう。ここからは机上調査だ。
いったん情報を整理しよう。
・ 2000年代の地図に「原発」があった。
・ (2016年に「アクエリオンロゴス」放送)
・ 現在(2024年)は「felice」というマンションがある。
となると、見るべきは「felice」ができる前に何があったのかだ。
まずはグーグルストリートビューで見てみよう。これを使うと、過去の町並みをさかのぼることができる。
一番古いのは2013年だった。どれどれ。
felice以前の建物(=原発?)が解体されていた。おしい……!
次だ。
今度は図書館で地図を見ていこう。
物件の中身まで詳しく書いてある『ゼンリン住宅地図』を手に取って、ページをめくる。
あった。

(『ゼンリン住宅地図 東京都杉並区 2006/11月版』を元に作成)
地図の「原子力」は、「原子力の会社の寮」を省略したものだったのだ。
現実は、原発雄ハイツよりもずっと納得のいくものだった。
「そういうことか!」と叫ぶのをこらえ(図書館なので)、思いっきり伸びをした。
これにて一件落着だ。
終わりに
そういえば、アパート名の「felice」ってどういう意味なんだろう。
画面に出てきたのは、「幸福」の二文字だった。
FELICE(フェリーチェ)は、イタリア語で幸福を表します。
その文字列に妄想スイッチがONになる。
世界を救った彼らが残したモニュメント、これがその建物なんだ。
平和で幸せな日々が始まり地下の施設は役割を終えた。カモフラージュとしてのアニメストリートもなくなった。
そのあとに彼らだけがわかるようにさりげなく残した名前がこのアパート名なのだ。
「原発」の正体を見に行くだけのはずが、アニメの世界にひたる散歩になっていた。これも「アニメのまち杉並」だからこそできることだ。
阿佐谷には、かつての原発とアニメと幸せがあった。
