
今年のはじめから流行ワードの先頭をぶっちぎり続け、お茶の間の話題をかっさらっているものがある。
備蓄米だ。
では、その備蓄米の「パッケージ」を意識して見たことはあるだろうか。
実は今、備蓄米のパッケージが楽しいことになっている。
きっかけ
5月はじめのこと。お米が高い。備蓄米がほしい。
近所のスーパーのお米コーナーをちらりとのぞくのが日課となった。でも、目が合うのは空の棚ばかり。
ある日、底が見える米びつを目にして思った。
本気で買いに行こう。30分歩いた先にあるデカいスーパーに足を運んだ。
ビルの入り口のくぐり、2階へのエスカレーターに乗る。棚に目をやると、3000円台のお米と目が合った。
備蓄米、やっと会えたね。
で、ここから本題です。
5kgの運搬クエストを終え、家で戦利品を広げる。
床においたあと、あれ?と1分ぐらい見つめあってしまった。

なぜか、このお米に対し「友達」のような親しみが芽生えてきた。仲良くなれそう。
なぜだろう。その理由を考えていこう。
普段買うお米は、どこか「高貴」なイメージがある。パッケージにあるのは「銘柄名」だ。

「あきたこまち」や「コシヒカリ」のように、生い立ちを堂々と名乗る姿には歴史の重みと生まれへの誇りがにじみ出ている。
それに対し、「いつものお米」はどうだろう。あまりに日常の延長線にいる。
なるほど、親しみを感じたのは、備蓄米が肩ひじ張らない「ふつうの存在」だったからか。
普通のお米を「有名私立校に通うお嬢様」とすれば、備蓄米は「眠気をこらえながら授業を受ける公立校の生徒」といったところだ。
では、ほかの備蓄米はどんな名前なんだろう。
調べて見えてきたのは、想像を超える「自由なパッケージ」の世界だった。
今回は、そんな備蓄米の世界を、6パターンにわけて紹介します。
※備蓄米の多くは「備蓄米」と書かれて販売されていないため、ブレンド米と備蓄米の区別をつけるのは難しい一面があります。そのため、紹介するものは「複数原料米」であっても備蓄米が含まれていない可能性があります。ご了承ください。
1. 安いといえば?
最初に紹介するのは、「安いといえば○○」という連想ゲームで名づけられているお米たちだ。
安い=食べ放題!
安いを極めるとたどり着く頂点の場所、そこが「食べ放題」だ。
人は食べ放題を求める。
「すたみな太郎」では生肉や寿司を火あぶりの刑に処し、「しゃぶ葉」では肉の入った容器をタワマンのように積み上げていく。
それらに共通する魅力が「安さ」だ。
では、ここで考えてほしい。
「安い商品」であれば、実質「食べ放題」なのでは。
この自由な発想のもと、新しいパッケージがこの世に一つ生まれた。

この勢いの良さ、好きです。
安いといえば「楽しい」
次はこちらを見てほしい。

お金の余裕は幸せに直結するものだ。
もし5キロ6000円のお米を仕方なく買ったとしよう。ため息をつきながら精算機にお札を滑らせることとなる。
お米を食べるときに値段を思い出し、表情はくもってしまうに違いない。
では、逆に安いときはどうなるか。家計にゆとりができてお父さんお母さんはにっこり。それが子どもにも伝わり、食事は笑顔のあふれるものになっていく。
この風景を一言で表したのが「楽しい食卓」ということだ。

安さといえば「応援」
今度は売る側の目線で考えてみよう。
お店としてはお客さんに笑顔になってほしい。でも、利益を出さないといけない。
物価高の苦しみをやわらげることがしたい。
そうだ、「応援」の意味をこめて安いお米を仕入れよう。

買う側だけではなく、売る側にもまた別の悩みはあるものだ。
そんな思いがにじみ出ているパッケージでした。
2. 私がブレンドしました
お米が売るとき、陰の功労者がいることを想像したことがあるだろうか。
それが、お米を集めてお店に届けるまでにかかわっている業者の方々だ。
普通のお米のパッケージで彼らが目立つことはない。
なぜなら、パッケージの主役は「銘柄名」だから。
しかし、備蓄米は複数のお米をブレンドして作るので主役がいない。
その結果、今までは裏方に徹していた「業者名」がパッケージの主役に躍り出るお米がでてきたのだ。
たとえば、JAグループの「全農パールライス」。

「全農パールライス」がブレンドしたので「パールライスのお米」と。
「私がブレンドしました」とばかりにパッケージのセンターをつとめる「パールライス」の文字は、どこか誇らしげだ。
名古屋を拠点としている「ヤマトライス」が売り出すお米は、名づけて「ヤマトTHEライス」だ。

アニメやドラマの劇場版に「THE MOVIE」をつけることで特別感を演出することがある。この手法をまさかお米でも見るとはね。
お米が主人公の映画があるとすれば、いったいどんなものになるんだろう。
3. 産地はあります!
お米の銘柄名の中には、「地域」をイメージするものがある。
たとえば、「ゆめぴりか」と聞くと雄大な北海道の平地が頭に広がる。「あきたこまち」と聞くと秋田のきりたんぽが食べたくなる。*
つまり、お米のパッケージのセオリーの一つは、「地域色を出す」ことだ。
そのノウハウは、一部の備蓄米でも活かされている。
たとえばこちら。

実は、ブレンド米でも地域色を捨てないですむ方法がある。
「同じ地域のお米だけでブレンド」すればいいのだ。
これにより、「備蓄米感」がうすい雰囲気で売ることができる。
「その手があったか! でも、バラバラな地域でブレンドしちゃったよ……」
そんなことを思った業者の方!
安心してほしい。
まだ、手はあります。こんな風に。

「日本産のお米をブレンドした」とアピールすればいいのです!
「すごそうなお米に見えて当たり前なことを言ってるだけ」なんてつっこまれても気にしてはいけない。まちがったことは書いてないので。

日本産であること、それだけで立派なお米だ。誇っていこう。
4. 品種名に擬態しよう
お米の主役である「銘柄名」が備蓄米では封じられていると最初に書いた。
が、これの抜け道がある。
それが、「お米の銘柄風の名前をつける」ことだ。

備蓄米は、新たな出会いを作り出す。
普通の日常では出会うことのなかった「二人(異なる銘柄のお米)」が「ひょんなきっかけ(備蓄米放出)」で「結ばれる(一緒にブレンドされる)」こととなる。
そんな物語から生まれたTHE MOVIEに名前を付けるとしたら、「縁の舞」だろう。
クライマックスは炊飯器の中で舞い上がる二人のシーンでお願いします。
出会いといえば、こんなのもどうでしょう。

不思議な「星(キラッ)」の「めぐりあわせ(備蓄米の放出)」で出会った彼らの物語だ。
そう思ってパッケージをながめると、映画のポスターのように見えてくる。見えてきません?
二つの合わせ技を使っている備蓄米もあった。

いかにも銘柄っぽいが、これもブレンド米だ。
北海道産のみをブレンドして地域アピールするだけでなく、「キタノイロドリ」という銘柄っぽい名前をつけることで、いかにも「エリートのお米感」を醸し出している。

これもシンプルで良くないですか。
お米のパッケージでありながら「どの食物にもつけられる名前」なのが味わい深い。
この袋にジャガイモを入れたら誰も米袋だと気づかないでしょう。
5. 備蓄米の匂わせ
ところで、備蓄米はなぜここまでひねった名前をつけているのだろう。
シンプルに「備蓄米」と書いて売り出せばいいのではないか。
調べてみると、理由が見つかった。
備蓄米とあえて表記しない理由について、JA全農は「買う人が取り合いになり、消費者や流通が混乱することを避けるため」と説明する。
(FNNの記事より引用)
備蓄米を隠しているのは、イベントのとき騒がれないように裏口から入場する有名人と同じ理論だったのか。
(だだ農林水産大臣が変わってからは、備蓄米と書かれたお米も現れ始めている。)
ならば、備蓄米とわかるような匂わせをすれば、売れるのでは?
その発想のもと生まれたのが、「ブレンド米」を前面に売り出すパッケージだ。

普通の銘柄の真似をせずに、あえてブレンドしたことをアピールすることによって、「僕、備蓄米っぽいでしょ?」と振り向かせるたくましさよ。

こちらは、これでもかと「お得」をアピールしている。
このパッケージを見ていると短歌ができたのでご査収ください。
お買い得 生活応援 ブレンド米
ご理解の上 買い求めてね
6. お米はごはん
「ごはんはおかず」という曲がある。
ごはんはお好み焼きやラーメンといった炭水化物にも合うから、主食というよりおかずだ!
と主張しつつ、
でも納豆や生卵とも合って最高だよね
と、ごはんへの愛を高らかに歌い切った名曲である。
この曲で分かるとおり、日本人は

なのだ。
深く考えることはない。
お米のパッケージにも「ごはん」と書いておけば売れるのだ。
なぜなら日本人は、

だから。
ごはんさえあればハッピーなのだ。
ごはんさえあれば頑張れるのだ。

ごはんさえあれば元気なのだ。
ごはんはすごいよ、ないと困るよ。
だから、早く値下がりしますように。