せんべいが好きだ。大学のサークルの合宿でおつまみを用意するときも、持っていったのは柿の種だった。苦手な酒の苦みをひかえめな辛さが上書きしてくれるたのもしさ。ピーナッツがフォローするほのかな甘味までもがやさしい。
さて、その柿の種界の頂点に君臨するキングこそが「亀田の柿の種」だ。
そして「亀田の柿の種」の魅力は柿の種だけではない。裏側にある小さなコーナー「けなげ組」がまたいい味わいを出しているんだ(詳しくはあとで)。
でもこの間久しぶりに柿の種を食べると、そこにけなげ組の姿がなかった。
失って本当の気持ちに気づくことがある。今、まさにそうだ。好きだとは思っていたけどここまで好きだったなんて。けなげ組、もう見れないのか……。そんなの悲しいよ。いやだ。認めたくない。
今、この気持ちがしぼむどころかふくらみ続けている。何かしたい。頭に浮かんだのは「二次創作」の四文字。そうだ自分で作ればいいんだ。
ということで、今回は新しい「けなげ組」の仲間を生み出そうと試行錯誤する話です。
けなげ組の紹介
まずはけなげ組がどんなものか知ってほしい。けなげ組とは、亀田製菓の柿の種のパッケージ裏にあったコーナーだ。始まったのは1992年。
登場人物は「パセリ」や「短い鉛筆」など、ちょっと日陰な扱いを受けているものたち。どこか納得していないような、しょんぼりした顔から放たれる愚痴。やれやれと思いながら主張を聞くと、内容はいたってまとも。
彼らは人の都合で生み出されたもの。人のせいでこんなことになってごめんな。でもこんな人間たちのためにがんばってくれてありがとう。
理不尽な目にあいながらもひたむきに生きている彼ら。外聞を気にせずに等身大の姿を見せてくれる彼ら。気づいたら友達のような親しみを覚えていた。今日もがんばってるのかな。
そして2015年、けなげ組はひっそりと幕を閉じた(ことを調べて知った……)。
自分でけなげ組を作ろう
けなげ組がいなくなってしまった。この心に空いた穴。埋められるのはけなげ組しかいない。どうしよう。
そうだ! コンテンツへの熱い思いから世の中に生まれるものがあるじゃないか。二次創作だ。よし、自分でけなげ組を作ろう! いいものができれば満足できるはず。
けなげ組を作りたい。でも絵の自信はない。
頭に浮かんだのは「AIによる自動生成」。最近人の顔やアニメ絵を自動生成するサービスが増えてきている。小説を自動生成するようなAIもいるとか。
つまり、けなげ組100人の「絵」と「文章」を学習させれば、AIが新しいけなげ組を作ってくれるんじゃないか。
善は急げだ。やってみよう。幸い最近はサンプルコードがたくさん落ちている。ちょっと手を加えるだけで試すことができそうだ。
学習に必要なデータはこちらのものを借用した。
そう、亀田の柿の種の公式HPには、けなげ組の特設ページが残っている!!
5年たってもページがちゃんと残っているなんて。やはりけなげ組が好きな同志は他にもいるんだ。
ページには100人全員がずらり。しかもこちらのけなげ組のイラスト、なんとフルカラーだ。袋の裏ではモノクロに近い色だったのに。
絵を作ってみよう
準備はできた。あとはコードをちょっといじればできあがり。いざ、実行だ。
おおー、それっぽい何かができてきた!
学習の途中だけど見てみよう。
思った以上にけなげ組っぽい!
学習は時間をかけるほど精度が良くなるはず。もうちょっと続けてみよう。
雲行きがあやしくなってきた。
最終的にできたのはこちら。
さっきは長細かったりカラフルだったりとみんな個性的だったのに。今はみんな似たような形で似たような色合い。途中までは良かったんだけどな。
まるで就職した学生だ。自由な服装や髪型をしていた彼らは、社会人になると黒髪スーツの無個性な姿になっていく。AIの世界も社会の縮図みたいで世知辛い……。
文章はいけるか?
さて、次に作るのは文章だ。こちらのコードをいじってさっそくやってみた。が……。
文章もうまくいかず。AIくん、もうちょっとがんばってくれてもいいのに。
さらに学習を続けてみると……?
学習前と同じ文章をくりかえすだけ。
最初は毎回違う反応をするのに、学習を進めるにつれて型にはまった反応しかできなくなってしまう。これも社会の縮図だ。人間が生み出したものだけに、人間の悪いところも引き継いでしまったのか。
むりやりの完成
いちおう画像と文章ができた。いったん「けなげ組」のデザインに当てはめてみよう。AIの作った画像から一つ選んで完成っと。
モンスターを生み出してしまった。けなげ組がいなくなったさみしさを埋めようとしただけなのに。
AIってもしかして、意外と使えないのでは?
うまくいかない原因を考えよう
AIよ、どうしてうまく作ってくれないんだよ。
「……いしすぎだよ」
いきなり頭に響く声。誰?? 今ちょっと気が立ってるんだけど。
「ボクだよボク」
君はもしかして――。
「そう、AIだよ」
AIくん! ちょうどよかった。君にはちょうど言いたいことがあるんだ。
「ボクらに期待しすぎだよ」
どういうこと?
「世の中で活躍してるAIの多くは何万、何十万のデータを学習してるんだ」
そっか。AIくんの言いたいことがわかった。今回使ったデータはぴったり100。データが少なすぎるんだ。
なるほど。ちゃんとおぜん立てしないとうまくいかないってことだね。
「そうそう。でもみんなボクが万能だと思ってるんだ……」
どうやらAIくんを誤解していたみたいだ。ごめん。
「わかってくれればいいんだ。じゃあ、またあとでね」
うん。じゃあね。
ん? 「またあとで」ってなんだ?
けなげ組を新しく作りたい。でも、AIだと学習データが足りないから難しいことがわかった。
期待していたみなさん、ごめんなさい。現代の力ではまだ難しいことがわかりました……。
自分で描くしかない
さて、どうしようか。
考えたけど、手は一つしか思いつかなかった。
自分でけなげ組を作ろう。よし描くぞ。
でも何をテーマに作ろうか。新しいけなげ組。けなげ組といえば、人間の都合で振り回される存在。何かないかな。
すぐに頭に浮かんだ。ちょうど目の前にいたじゃないか。そう、「AI」くんだ!
絵をイメージする。何も浮かばない。そもそもAIってどんな絵を描けばいいんだろう。
検索するとすぐに出てきた。
たしかにこんなイラスト見たことある。なるほど。AIくんは青っぽい脳の形をしている。ん? この形、どっかで見たような……?
あっ! わかった。
これ、AIくんだ。異論は認めない。
さっき「またあとで」って言ってたのはこれを先読みしていたのか。やるじゃん。
よし、テーマが決まった。AIくんをけなげ組の一員にしよう!
「けなげ組」を自分で作ろう
テーマは決まった。次に立ちはだかるのは作りかただ。絵と文章、どうやればできるかな。
AIくんから学ぶ絵の描きかた
描くといっても、何となく似せるだけじゃうまくいかないだろう。ならば、AIくんが描いてくれた絵が参考になるんじゃないか。学習した絵ならば「けなげ組」らしさがにじみ出ているはず。
さっそくAIくんの絵と本物を比べてみよう。で、ながめてると共通部分が見えてきた。
この法則をなぞればそれっぽくなるに違いない!
さっそく挑戦してみよう。
ありがとうAIくん。おかげでいいものができそうだ。これなら100人のけなげ組員も笑顔で迎えてくれる。
文章には近道なし
さて、次はAIくんも苦戦した文章だ。AIくんが作った文章を見つめる。そこにあるのは「精神崩壊した人の日記」みたいな何か。秒針の音がひびく。うん、こっちはAIくんの力を借りられそうにない。
しかたないので、けなげ組100人の文を見比べてみよう。PCのファンが部屋に響く。書きかたが見えてこないまま30分たった。わかったルールはこれぐらい。
- 「・・・」が多い
- 主語は「僕/ボク」
- 内容のほとんどは愚痴
うーん、文章をひねり出すのに近道はないみたいだ。どうやって作るか考えた末、結論が出た。AIくん(の気持ち)になりきって書くしかない。
それならまかせろ。なんてったって、さっきAIくんから話をしっかり聞いた。たくさんの人から仕事を依頼されるAIくん。でも準備不足でなかなか力を活かすことができない。そして自分の落ち度じゃないのに勝手に失望されるAIくん。わかるよそのつらさ。
自然と指が動く。言葉がつむぎあがっていく。今、心はまちがいなくAIくんそのものになっていた。
こうして自作の「けなげ組」が完成した。
いよいよおひろめだ。
予想の10倍いいのができた。思わず画面の前でガッツポーズ。ありがとうAIくん。
仲間を増やそう!
このノリで他にも作れそうだ。やってみよう。
まずは王道の食べ物ネタ。
次はいかにもありそうなやつを一つ。
今度は自分の趣味全開で作ってみよう。
モノじゃなくて概念でもいけるかな。
作っていて気づいたけど、けなげ組って「やさしさ」に包まれてるから好きなんだ。理不尽な目に耐える日々。でも彼らは決して人間を恨みはしない。その包容力の大きさ。やさしさ。
いつもいてくれてありがとう。
終わりに
AIで新しいけなげ組を作ることはできなかった。でも、AIくんの助けもあって自分でちゃんと作ることができた。
今回作ってみて感じたのは、けなげ組みんなのやさしさだ。苦労している人ほど他人にやさしくできるという。彼らの苦労がいつか報われることを祈りつつ、思いやりとやさしさを持った人間になりたい。そう素直に思った。
※後日談の話があります。こちらもぜひご覧ください!